2011年10月29日土曜日

キャンプの達人

先週末は、サファリパーク内のキャンプ施設に家族三人で泊まりました。なんと一ヶ月の間に三回のキャンプ。どうしちゃったの?ってくらいの入れ込みよう。これは午後4時半にスタートして翌朝9時半までのプログラムで、夜の園内ツアーが見所です。闇の中で動き回るキリンやサイやライオンを見学する、というのはなかなか出来ない経験。寝袋と防寒具と懐中電灯だけ持参すればOKなので、初心者でも心配無用。晩飯も朝食も出るし、夜はキャンプファイヤー。マシュマロを串に指して炙り、チョコレートと一緒に食べる「スモア」まで用意されてる。至れり尽くせりです。
昨日の午前中、サンディエゴのオフィスで環境部門のオフィスマネジャーをやってるジムと話していたら、
「あ、そうだ、キャンプはどうだった?」
と思い出したように尋ねました。そういえば、先日彼にはこの話をしてあったのです。
「すごく楽しかったよ。夜中に目覚めてテントを出て、少し離れたところにあるトイレまで歩いた時、闇の中でたくさんの小動物が藪の中へ逃げていく音が聞こえて、ちょっと怖かったな。」
「そいつは珍しい体験だね。」
そこへ熟練PMのダグがやって来て、会話に加わりました。
「ダグも僕も、コロラドの山の中で育ったタイプで、子供の頃からキャンプばかりしてたんだ。今でも年に数回は狩りと釣りも兼ねたキャンプだね。」
そう言うジムに合いの手を入れるように、
「ああ、俺は年に一回だけどね。」
とダグ。
「狩りって何を?」
と私。
「ま、大抵は鹿だね。」
と二人。

それから彼らは、獲物を乾かすため、皮を剥いで岩の上に一昼夜置いておくこと、しかもそこからキャンプ地までは十分距離を取ること、などを教えてくれました。
「熊にやられるかもしれないからね。獲物を持っていかれることはしょっちゅうだけど、それでも巻き添え食らって殴り殺されるよりはましだろ。」
一口にキャンプといっても、レベルが色々あるんだな、と悟りました。この二人は文句無しに、筋金入りのキャンパーです。

その後、エド、リチャード、そしてマリアと一緒に地中海料理のお店でランチ。私は炒めたラム肉をナンみたいな生地で包んだ物を頼みました。ここへマリアの友人のジョナサンが合流し、何故かまたキャンプの話題になりました。ジョナサンは、近いうちにハンティングに行くと言います。
「ボア(イノシシ)を撃ちに行くんだ。もともと外国人が連れてきて野に放したのが繁殖し過ぎちゃって、在来種を駆逐してるんだな。だからボア狩りは奨励されてる。」
「しかもその肉がウマいと来てる。」
ニヤリと笑うエド。リチャードも、自分は一度アーチェリーを使ってみたい、なんて口を挟みます。

ええ~っ?みんな普通にハンティングしてんの?ちょっとショックでした。帰宅し、夕食時にこの話をしたところ、鹿を撃つ、というくだりで9歳の息子が泣き出しました。可愛い鹿を殺すなんてひどい、と訴えるのです。
「でもね、私たちは皆、殺された動物を食べてるのよ。」
となだめつつ教えを説く妻。
「でも鹿を食べなくたっていいじゃない!」
と抵抗する息子。その後、イノシシ狩りの話題を持ち出すと、急に目を輝かせて、
「僕もやってみたい!」
と俄然元気を見せる9歳児。おいおい、イノシシはいいのかよ?!

続いて今日私が食べたラム料理の話になり、
「僕もラム食べてみたい。」
と嬉しそうに言うので、
「ラムって子羊のことだよ。」
と説明すると、再びさめざめと泣き出す息子でした。

2011年10月28日金曜日

Homogenized 均質化された

昨夜は、同僚ジョシュを誘って「和ダイニングおかん」へ行きました。彼が貸してくれたDVDを返しがてら、うまい和食に舌鼓を打ちつつ映画談義を愉しもう、という企画。

借りたDVDというのが、黒澤映画「影武者」、それに三島由紀夫の生涯と作品を描いた「Mishima: A Life in Four Chapters」です。ジョシュは、日本の名画を何百も観てきたという日本映画通。黒澤、小津、伊丹、と映画監督の名を次々に挙げて彼らの作品について論じてくれました。ちょっと感心したのが、俳優や歴史上の人物の名を、日本式に苗字から先に言うこと。

タケダシンジェン(武田信玄)
ミシマユキコ(三島由紀夫)

と、ちょっとずつ間違っているのが可愛いんだけど。

私に貸したDVDについては、
「ミシマの作品を読んだことのない人にはちょっと厳しいかもね。」
なんてカッコいいコメントまで加えたりして。これで日本へ行ったことは無い、というのだからビックリ。

最近のハリウッド映画は最低だ、と日頃から毒づいていて、日本映画の優れたところは体制に迎合しないことだ、と持ち上げます。
「たとえばさ、ハリウッド映画でウェイトレスが主人公だった場合、決まってびっくりするほどの美人で、しかも生活レベルもそこそこだったりするでしょ。有り得ないよね。日本映画だと、現実の厳しさを正直に表現してくれるんだよ。後悔や挫折、日々の細かい気持ちの揺れさえも、観客に伝えようとする。ほんと最高だよ、日本映画は。」

なるほどね。そう言われてみれば確かにハリウッド映画は、全く現実味の無い話を臆面も無く延々と見せるよな。
「アメリカじゃ、マスマーケットにウケる映画しか作らなくなってるんだよ。資本主義の行き着く先は、結局そういうことなんだ。こないだカンザス州に行く用事があったんだけど、ショッピングモールに入ったら、ここはカリフォルアか?と見紛うほど店のラインナップが酷似してたんだ。何でも均質化しちゃってるんだよね。」
この時ジョシュが使った表現が、これ。

“They are all homogenized.”

ホモジナイズド。均質化。う~ん、クールな単語だねえ。

「日本だったら、北海道、本州、それに九州、と行く土地土地で景色が違うだろ。」
なんで日本に一度も行ったことがないのにそんなこと知ってんの?と不思議になって、彼の興味の源泉を尋ねてみました。
「それは自分でも分かんないよ。ただ日本が好きなんだ。」

この後、幕末から明治にかけての歴史談義になり、私がペリー来航の話題を持ち出したところ、さっと顔色を変えて苛立ちを露にしました。

“I hate that guy. He coined the term “Gunship Diplomacy” that makes me embarrassed as an American”.
「あいつなんか大嫌いだ。砲艦外交なんて言葉を作りやがって、同じアメリカ人として恥ずかしいよ。」

そして、吐き捨てるようにこう言いました。

“He’s such a fxxkin’ asshole!”
「あいつはホントに大馬鹿野郎だよ!」

まるでペリーと面識があるみたいな言い草。笑いました。

2011年10月26日水曜日

An endangered species 絶滅危惧種

今朝、環境保護の専門家であるジムに会った際、こんな質問をぶつけてみました。
「よくspecies(スピーシーズ)っていう言葉を聞くけど、これって単数なの?それとも複数なの?」
これは不意を衝かれた、という表情で暫くもごもご説明を試みた彼ですが、急に遠くを見るような目になってこう言いました。
“That’s a good question. I don’t know.”
「それは良い質問だね。僕には分からないよ。」
そして、Technical Editor と話すことを薦められました。

テクニカル・エディターというのは、プロジェクトの成果品であるレポートなどを検閲して言葉使いやスペルの間違いを正したり表記を統一したりする専門家。
「その人、どこにいるの?」
と尋ねると、彼が廊下の奥を指差しました。
「テリースって人だよ。彼女に聞くといい。」

何度か角を曲がったどん詰まりに、テリースのオフィスがありました。ノックして入ると、150センチあるかないかの小柄なおばさんが振り向きました。100パーセント白髪のショートヘア。60歳くらいかな。メガネの奥の穏やかな目。これまで何度かすれ違ったことがあったけど、一度もまともに会話したことのない、おとなしいタイプの女性です。図書館司書みたいな雰囲気。

「英語の質問したいんだけど、良いですか?」
「どうぞ。」

ふと彼女の書棚に目をやると、分厚い辞書がひしめき合っています。
「Endangered species (絶滅危惧種)って言葉がありますよね。Species って、単数ですか?それとも複数ですか?」
「どちらにも使うわよ。」
おおっ、即答!
「とすると、California Gnatcatcher is an endangered species. と単数扱いしたり、There are endangered species in this area. のように複数扱いしたり出来るということですか?」
「その通りよ。」

静かに微笑みながら事も無げに答えるテリース。あまりの即答に驚嘆し、お礼を言って部屋を出ました。しかしすぐに戻ってこう続けました。
「何度もごめんなさい。じゃ、headquarters はどうですか?」
「それは単数よ。」
げげっ!またしても超即答!
「じゃ、Our headquarters is in Los Angeles. と言えるわけですね。」
「そうよ。」
ニッコリ笑うテリース。
「本当にどうも有難う。」
「いつでもどうぞ。」

興奮して彼女のオフィスを後にしました。よ~し!無料の英語教師をゲットしたぜ!

2011年10月24日月曜日

英語を学ぶ動機

中学生の頃、雑誌の裏表紙の広告に写っていた金髪の若い女性に釘付けになりました。
「世の中にこんな綺麗な人が存在するんだ!仲良くなって話が出来たらどんなに楽しいだろう。」

これが英語学習の最初の動機でした。当時の日本は今みたいに国際化していなかったから、白人女性を目にすること自体、滅多にないことだったのです。その後も色々あったけど、あの写真ほど強烈な推進力を与えてくれる物は二度と現れませんでした。

今日、渡米後11年目にして、初めての部下が出来ました。金髪で青い目の、とても感じの良い女性です。16歳の息子さん、13歳の娘さんがいるとのこと。

タイムマシンに乗って中学生の自分にこの話をしたら、ぶったまげるだろうな。

2011年10月23日日曜日

Thought-provoking movies 色々考えさせられる映画

うちのアパートの管理棟の二階には、大型スクリーンを擁するミニシアターがあります。毎週水曜と金曜の晩には住民を集め、DVD発売されたばかりの映画を上映してくれるのですが、最近までそのサービスをほとんど利用していませんでした。それが何かの拍子に、数ヶ月前から突然家族でシアター通いをスタート。

先々週の金曜は、「トランスフォーマー」の最新作を鑑賞。9歳の息子は大いに楽しんでいましたが、我々夫婦は不思議な疲労感を共有していました。

一昨日(金曜日)、同僚リチャードとランチに行った際、「トランスフォーマー」の感想を語り合ったのですが、その時の私の主張はこれ。
「確かに面白いし、観ている間はドキドキしたりもするんだけど、エンドロールが始まると同時に虚しさに襲われるんだよね。途轍もなく無駄な時間を過ごしちゃったような気になってね。心に残るセリフはひとつも無いし、リアリティもゼロ。何か人生に役立つ教訓を学ぶ、なんてこともない。ま、そんな小うるさいことを言わず、頭を空っぽにして楽しめばいいじゃん、と思えば思えるんだけど、どうもこういうハリウッド気質丸出しの映画って苦手なんだ。人生ってフェアじゃないよな、とか、この人のセリフって深いなあ、とか考えさせられるタイプの映画が、やっぱり好きなんだよね。」

この時の、リチャードの合いの手がこれ。

“I know. You like thought-provoking movies.”
「そうだよね。Thought-provoking な映画が好きなんだもんね。」

それそれ!そのフレーズを探してたんだよ。直訳すれば「思考を挑発する」ですが、要するに「色々考えさせられる」という意味。昔から、私はそういう映画が好みなのです。

その晩、「パイレーツ・オブ・カリビアン」を家族で鑑賞しました。これが結構面白かった。特に人魚の出てくるシーンは抜群。裸の肩を水面上に覗かせた、若くて綺麗な人魚たちが大勢で船を取り囲み、船乗りたちを誘惑する。船員の一人が、その魅力に釣り込まれて顔を海面に近づけた途端、人魚のひとりが牙を剥いて恐ろしい表情に豹変。次々に男どもを海中に引きずり込んで行く。このシーンは圧巻でした。

でもね。

やっぱり映画が終わった後、なんて無駄な時間の使い方をしちゃったんだろうっていう虚しさが残るんですよね。教訓はと言えば、「綺麗なおねえちゃんが大勢で誘って来る時は絶対やばいぞ」くらいだし、それも大して目新しい話題じゃない。5秒でいいから、 Thought-provoking な場面を用意して欲しかった…。

2011年10月20日木曜日

That will raise hell! 大騒ぎになるぞ!

昨日はダウンタウン・サンディエゴのオフィスで、プロジェクトマネジメント・トレーニングの講師を務めました。終了後、同僚ディックから、
「俺が今まで受けた中で最高のトレーニングだったよ。」
と褒めてもらい、上機嫌。
「良かったら、一緒にまたバーガーラウンジへ行かない?」
と誘われたので、二人でお気に入りのハンバーガーを食べに行きました。

「能書きの羅列に終始せず、具体的な解決策をひとつひとつ紹介したのがすごく良かったね。しかも専門的な話に偏らなかったから、頭にすんなり入ったよ。」
とディック。
「どうもありがと。ところでさ、Headquarters (本部)って単数なの?それとも複数なの?ISOの本部がスイスにあるって話をする時、 “The ISO’s headquarters is in Switzerland.” って言って良いのかどうか迷ったんだよね。だってもしも複数なら is を使えないはずでしょ。かと言って are を持ってくるのも気持ち悪いし。どっちが正しいわけ?」
「う~ん。俺には分かんないな。」
「え?分かんないの?」

バリバリのアメリカ人で、とりわけ言葉を慎重に選びながら話すタイプの彼でさえ答えられないんだから、私が迷うのも当然でしょう。
「英語って本当に難しい言語だと俺は思うよ。」
とディック。

極上バーガーを頬張りながら、私が最近聞いた噂をディックに披露しました。
「来年の初めから、北米の全支社を対象に、会社が二日間に渡るプロジェクトマネジメント・トレーニングを始めようとしているらしいんだ。もちろんそれ自体は歓迎なんだけど、問題は、トレーニング後のテストに合格しない者はPMの座を下ろされるって話。いくら技術的能力に長けていても、プロジェクトマネジメントの知識がない奴は引っ込んでろっていうメッセージだよね。」
美味そうにもぐもぐ動かしていた口を開いて、ディックがこう言いました。

“That will raise hell.”
「そりゃ地獄を持ち上げるぞ。」

ええ?地獄?何のこと?

一瞬スルーしかけたのですが、思い直してこのフレーズの意味を聞いてみました。彼が言葉を尽くして説明してくれたのですが、どうも良く分かりません。総合すると、どうやら「大騒ぎになる」ということらしいのですが、「何でそういう表現をするのかは分からないよ」とのこと。

帰宅後あらためて調べてみたところ、

“Raise Cain”
「Cainを蘇らせる」

というのが元らしいです。Cainはアダムとイブの息子のひとりで、この世で最初の殺人者。「ケインとアベル」というお話でも知られています。このCain をこの世に呼び戻せば(raise)大変な騒ぎになる、ということで、「大騒ぎを起こす」という意味の慣用句になったわけ。これが後に “Raise devil” とか “Raise hell” などの変化形を生み出したのだそうです。ディックはそもそもの語源を知らなかったため、クリアな説明が出来なかったのですね。

ランチのシーンに戻ります。

私ももぐもぐしながら、
「ヘルには定冠詞の The が付かないんだね。世の中に地獄はひとつしか無いっていうのがその理由なの?」
と質問すると、
「ああそうだね。宗教によっては二つ三つあるかもしれないけど、キリスト教的にはひとつだよね。」
とディック。

そういえば、昔誰かに聞いた話で、死後地獄に行ったら三つ部屋があった、というジョークがありました。一つ目が火炎地獄で、人々が業火に焼かれて悶え苦しんでる。次が氷地獄で、恐ろしい寒さの中で人々が凍えている。三つ目が肥溜め地獄で、汚物のプール上で浮き袋につかまった人々がタバコを吸ってる。あ、ここにします、と案内人に告げて浮き袋を借りた時、監視員が笛を吹いてこう叫びます。
「はい、休憩終わり。全員潜れ!」

2011年10月18日火曜日

超ご機嫌キャンプ

週末、Lark Canyon という砂漠の渓谷へキャンプに行きました。今回は元プロ・オートバイレーサーYさんのご好意により、彼の所有するモトクロスバイクや四輪バギーに乗せてもらえることになり、子供も大人も期待に胸を大きく弾ませて参加。Yさんがバイク5台とバギー一台をトレーラーハウスに搭載し、これをトラックで牽引して豪快に登場します。我が家3人と友人一家5人がこれに合流。二日目にもう一家族がやって来て、最終的には12人という大所帯に膨らみました。

この歳でバイクデビューするとは思ってもみませんでしたが、やってみると意外に面白いのです。砂や石でタイヤが滑るのであまりスピードが出せない分、安心感があります。ポイントは、ビビッて腰が引けると手首が返ってしまい、自然とアクセルも開いてしまう、という点。しっかり肘を張って手首を固めておかないと、身体より先にバイクが突っ走って行っちゃうのです。まるで暴れ馬の背から放り出されるような格好。

家では読書ばかりしてなかなか外遊びをしたがらない9歳の息子ですが、意外にも今回の企画にはハマったようで、同じコースをスローペースながら何十周も走り続けていました。後で見たら、転んだ時に出来た擦り傷や内出血、それに熱したマフラーに触れて出来た火傷の後が、両足に何箇所も出来ていました。若い頃バイク乗りだった妻は、巨石やサボテンが散在する超難関の凸凹コースを果敢にアタック。遠目でも、ヘルメットの隙間から見える頬っぺたのふくらみ具合から、彼女がいかに興奮しているかが見て取れました。

成人後2度目のキャンプで、いきなり超ご機嫌なイベントを経験。鼻の穴まで砂だらけで帰宅した後、「楽しかったね」「また行きたいね」をいつまでも繰り返す私たちでした。

2011年10月14日金曜日

Pet Peeve 怒りのツボ

火曜日にロサンジェルス支社で、プロジェクトマネジメント・トレーニングのドサ回り第一弾を終えました。来週から第二弾の開始です。それが終わると、次はミケーラの「ファイナンス」、サラの「リスクマネジメント」と続きます。今朝ふと気になって、アーバイン支社のリサにこんなメールを送りました。
「サラの原稿作りは進んでるの?来月の本番に間に合うのかな?」

法務部のお偉方であるサラは、当初から「スライドは用意するけど実際に教える時間が割けるかどうかは不明」という中途半端な態度を表明していて、講師陣の最大の不安要素なのです。

これに対するリサの返信がこれ。
「粗い原稿はもうもらってるの。でも、社内規定の変更が進行中だから、その最終形を待たないとスライドを完成させられないって言うのよ。」
そしてこう続きます。

“I’m having a call with her again on Monday to draw a line in the sand and just go for it.”

Draw a line in the sand だって?砂に線を引く?う~ん、これは新しいフレーズだぞ。さっそく調査。意味は「譲れない一線を示す」で、有力な語源は二種類あるようです。

リサは週明けにサラに電話して、「私が譲歩できるのはここまでよ。」と詰め寄ってみる、と言いたかったのでしょうが、これを私は「意思決定の期限を決めて告知する」という風に解釈しました。で、同僚リチャードに確認すると、
「ここから先は譲らないぞ、覚悟しろよ、という対決姿勢で使うイディオムであって、仕事の締め切りみたいな話とは全然違うよ。」
という意見。ああそうなの?でもリサがサラに脅しをかけるとは思えないしなあ。

同僚マリア、そして品質部門の重鎮クリスとランチに出かけた際、この話をしてみました。するといつも穏やかなクリスがいきなり、

“That’s my pet peeve!”

とうんざりしたような顔で唸ったのです。なに?ペットピーヴ?

「仕事の場でイディオムを多用する奴に会うと、頭に来るんだよ。話の内容がぼかされてちゃって、結局正確に伝わらないケースが少なくないんだ。悪いことには、今回の例でも分かるように、本来の意味から微妙にずらしてイディオムを使う輩がいて、余計意思疎通の邪魔になるんだよな。」
「ふ~ん、そうなの。僕は嫌じゃないけどなあ。英語の勉強になるし。でも確かに、会議中に知らないイディオム使われると、そこで思考がぴたっと止まっちゃうこともあるね。」
「だろ。だから僕は、イディオムを不用意に使う奴に会う度、それは一体どういう意味だ?って挑みかかるようにしてるんだ。」
「それはちょっとやりすぎじゃないの?皆にうるさがられるかもよ。」
「いや、それでも僕はこの運動を続けるつもりだよ。」

クリスのこだわり方はちょっと理解に苦しむけど、私は彼の言った「ペットピーヴ」の意味が気になっていました。午後、同僚リチャードを再び訪ね、解説を依頼。
「ピーヴはイライラの元、とか人を怒らせるもの、とかいう意味だね。ペットはほら、お気に入りってことでしょ。だから、ペットピーヴはその人独自の怒りのツボみたいな意味だね。」

な~るほど。つまりこういうことかな。

“That’s my pet peeve!”
「それが僕の怒りのツボなんだよ!」

どうでもいいけど、あまりクリスに意地張られると、ブログのネタが減っちゃうんだよな…。

2011年10月12日水曜日

Yahoo 野蛮人

今朝の電話会議でお偉方の一人が、協力業者たちの杜撰な仕事ぶりにはつける薬も無いと言わんばかりにため息をつき、吐き捨てるようにこう言いました。

“I hope we won’t have to deal with those yahoos any more.”
「あのヤフーたちと係わり合いになるのはもう願い下げにしたいね。」

ヤフー???

この状況で、彼が検索エンジンの批判をしているのでないことは明らか。ヤフーってそもそも何なんだ?と疑問がむくむく湧いて来たので、さっそく調べました。

なんとこの言葉、「ガリバー旅行記」に出てくる獣人が語源だったのですね。ウィキペディアによると、第四篇に「ヤフーと呼ばれる邪悪で汚らしい毛深い生物」が登場するそうで、ここから「野蛮な人間、田舎者、無教養な人」という意味で使われるようになったみたいです。

総務のトレイシーにこの言葉使うことある?と尋ねると、
「嬉しくて叫ぶときにはヤフー!って言うけど…。そっちの悪い意味では使ったことないわ。使わない方がいいわよ。」
との返答。最近仲良くなった若い同僚フェリースに聞くと、
「ちっちゃい頃、戸棚にしまってあったお菓子を黙って食べちゃった時、おばあちゃんに、このヤフー!って叱られたことがあるわ。」
と、なんとも可愛らしいエピソードを教えてくれました。

ふ~ん。なるほどね。そうすると、和訳は「野蛮人」かな?

“I hope we won’t have to deal with those yahoos any more.”
「あの野蛮人どもと係わり合いになるのはもう願い下げにしたいね。」

よし、ぴったり!

2011年10月8日土曜日

He is a dog. ちゃっかり者

昨日の朝、ロングビーチ支社で品質管理を担当しているアサーフから、PMのマークと私に宛ててメールが届きました。
「マークのメキシコ・プロジェクトのファイルは全てネットワーク・フォルダーに保存してね。」

私はこのプロジェクトの予算策定を手伝ったので、その際に作ったエクセルファイルを持っています。
「了解。でも僕はロングビーチのサーバーにアクセス権が無いんだ。メールでファイルを送るから、代わりに保存しといてくれる?」
と返信します。マークにccを入れて。これに対しアサーフが、ネットワーク・フォルダーのアドレスをメール本文に貼りつけて、
「ここに飛んで保存してくれれば良いんだよ。」
と返して来ました。おっと、これは意図が伝わってないな。
「アサーフ、そのリンク開かないんだよ。僕は他の支社の人間だから、アクセス権が無いんだ。」

数秒後、IT部門のジェフからメールが飛び込みます。
「シンスケ、マークのプロジェクト・フォルダーにアクセス出来るようにしたよ。」
おお、速い!と思ってよくよくメールの下方を見ると、私の最初の返信に素早く反応したマークが、ジェフに問題解決を依頼していたのです。

その数分後、アサーフがジェフに、
「ジェフ、シンスケにアクセス権をあげてくれないか?」
とメールを送ります。関係者全員をccに入れて。
「アサーフ、既に処理済だよ。マークに依頼されたんだ。」
と答えるジェフ。暫くして、アサーフがこれに返信。

Mark is a dog.

ええっ?「マークは犬だ。」って?どゆこと?確か「裏切り者」っていう意味だよな。でもそうだとちょっとズレてる。誰かに聞かなきゃ。

あいにく、ラリーもリチャードもマリアも不在。金曜の午後って人をつかまえにくいんだよな…。オフィスの中を暫くうろついたところ、製図担当のジェフ(IT担当と同じ名だけど別人)がコンピュータに向かってガリガリ働いていたので、質問してみました。

「う~ん、それは状況によって色々変わる表現なんだよな。」
「ポジティブなの?ネガティブなの?」
「大抵はネガティブだけど、声のトーンとか顔の表情とかで微妙に意味が修正されるよ。」
「たとえば今回のようなケースではどういう意味になるの?」
「おそらく、裏切り者、と強く糾弾してるわけじゃないだろうね。ちゃっかり者って感じかな。俺がせっかくシンスケを助けようとしてたのに、それを横取りしやがって!みたいなね。」
「ふ~ん。他にどんな使い方がある?」

ジェフは暫く考えて、いくつか例を挙げました。
「たとえば行きつけのバーに入ったら、自分の友達がスーパーモデル級の美女と並んで座ってたとするよ。後で聞いてみると、ちょっと声をかけたら意気投合してそのまま話し込んじゃったんだ、と言う。こういう時、 “You are a dog!” (うまくやりやがったな!)って冷やかすね。」
「なるほど。他には?」
「そうだな。今日、俺が前から欲しかった商品が、ある店でセール対象になってるとするね。5点しかないから、急がなきゃならない。でも俺は昼休みまで仕事が入っていて行けないんだ。それを聞いたシンスケが、午前中に店へ走って最後の一点を買っちゃったとするだろ。で、もう売り切れたぜ、と言われた俺が、 “You are a dog!” って言う。こずるい野郎だな!って。」
「う~ん、微妙だね。どっちにしても狡猾な感じがするね。」
「あと、女性が自分の女友達に、 “He is a dog. Stay away with him.” と言うと、あいつはカラダ目当ての遊び人なんだから近づいちゃ駄目よ。という意味になる。」

まいりました。この単語は使いにくい!
「Stop dogging me. って言えば、俺のことを批判するのはもう止めてくれ、という意味になるよ。」
ああ、もう止めてくれ!

「そもそもさ、犬は人間の一番の友達 (Dogs are man’s best friends.) って言うじゃない。なのにどうしてそういうずる賢いイメージの表現に犬が使われるのかな。」
と私。
「さあ、それは俺にも分からないよ。言われてみれば確かに不思議だね。これまで考えたこともなかったな。」
「オッケー。じゃ、そのことは後々ゆっくり調べてみるよ。邪魔したね。」
そうして彼のオフィスを去りかけ、最後にこう言いました。

“It’s Friday. Don’t work like a dog!”

2011年10月6日木曜日

Break the ice 場を和ませる

昨日の11時、ダウンタウン・サンディエゴのオフィスで、プロジェクトマネジメント・トレーニングの講師を務めました。一ヶ月前にも同じ会場でソフトウェアの使い方を教えるトレーニングをやったのですが、その時は「聴衆に背を向けたまま話す」という厳しい条件を強いられたため、いまひとつ手ごたえがありませんでした。今回はその轍を踏まぬよう、事前に細かくセッティングを調整し、聴衆とアイコンタクトを取れる立ち位置で話すようにしました。今度は絶対しくじらないぞ、と気負っていたためか、珍しく緊張。こういう時って聴衆も固くなっちゃって、うまく行かないんだよな…。うう、まずい、このままではいかん!

さっそく冒頭、プロジェクト・マネジメント・インスティチュート(PMI)の組織について話しました。PMIは非営利の国際組織で、プロジェクトマネジャーの資格試験を実施しています。現在世界中に37万人ものPMP(Project Management Professional) がいることを紹介しました。

「実は私もその一員なんです。時に人は私を、 Certified PMP と呼びます。」
一同爆笑。つかみはオッケー、これで一気に緊張がほぐれます。この時私は、PMPのことを「ピンプ」と発音し、 “Pimp” (売春婦のヒモ、ポン引き)とかけて洒落たわけです。つまり、「公認のポン引き」とも取れるような言い方をしてふざけたのですね。

トレーニングはつつがなく終了し、アーバイン支社から駆けつけていたリサが、ニッコリ笑って祝福してくれました。
「すごく良かったわ。この後、予定が無かったら一緒にランチへ行きましょう。」
財務のミケーラ、それにウェンディと連れ立ってイタリアン・レストランへ。皆でトレーニングの成功要因を分析してくれました。

リサは私の「ピンプ発言」に触れ、

“That was a good joke to break the ice.”

と笑いました。 Break the ice というのは、初対面の人と話す時などに緊張をほぐす一言を指して使われる表現なのですが、この場合は「場を和ませる」という意味ですね。なんとなく「アイスピックで氷の塊を砕く」図を想像していたのですが、それがどうして「緊張をほぐす」意味になるんだろう、と不思議になったので、ちょっと語源を調べてみました。するとどうやら、もともとは船が海面の氷を砕きつつ進む様子から来ているらしいことが分かりました。航海を続けるには、邪魔な氷を砕かなければならない。納得です。

さて、私の目下の悩みは、全く同じ内容のトレーニングをあと二回(聴衆は別ですが)やらなければならなくて、その際に同じジョークを breaking the ice のために使い続けるかどうかです。なんだか気恥ずかしいんだよな。

2011年10月4日火曜日

There is good news and bad news 不可算名詞のナゾ

今朝、出社途上の車内でラジオを聴いていたら、景気の動向に関するインタビューに答えていた専門家が、こんなことを言いました。

“There is good news and bad news.”
「良い報せと悪い報せがあります。」

以前から、この News という不可算名詞には悩まされて来ました。

“There is good news.”

はまだ良いとして(単数じゃないから冠詞の a は付かないけど、be 動詞はis になる)、news を二つ合わせてもまだ “is” を使えるということが、どうも釈然としないのです。さっそく同僚リチャードのオフィスへ行って、この疑問をぶつけてみました。

「うーん、そうだね。There are good news and bad news. というのは文法的におかしいよね。複数扱いしてることになるからね。でも、だからと言ってそのケースで is を使うのもキモチワルイね。」
「でしょでしょ!分かってくれて嬉しいよ。」
と興奮する私。
「じゃリチャード、君だったらどっちを選ぶの?」
と挑みかかったところ、彼が事も無げに答えました。

「僕なら be 動詞使わないな。I have good news and bad news. って言いかえるよ。」

ええ~っ?そういうのあり?なんか納得いかない…。

2011年10月3日月曜日

Stern 厳しい

今日、最近親しくなった若い同僚レイと昼飯を食べながら話していたら、彼が学校を出た後6年もフィリピンで働いていたことを知りました。地場産業を使ってコミュニティを活性化する、いわゆる「まちおこし」に取り組んでいたとか。ずっと以前、フィリピン政府に招聘されてマニラの官僚相手に都市開発関連のプレゼンをした経験がある私は、この話題に飛びつきました。普通に電車が行き来する線路のすぐ脇に何百人もの人が住み着き、枕木の上で洗濯物を干している光景を見た話とか、交通信号を無視して大量の車が我先に交差点へと突入し、完全に膠着している図など、ショッキングな思い出を分かち合いました。

「そもそも人口が爆発的に増えていた70年代に、都市計画をきちんとしなかったツケが回ってるんだよね。」
とレイ。今から何か策を講じようにも、越えなければならない障害が多すぎます。貧富の差があそこまで拡大したら、打つ手はひどく限られてしまうのです。

この時私は、「貧富の差が大きすぎる」をどうやって英訳するのかな、と考えていました。

“The difference between the rich and poor is too big.”

というのがさっと頭に浮かんだのですが、レイが次に発した一言にハッとさせられました。

“The disparity between the rich and poor is so stern.”

まずDisparity (格差)という単語がたまらなくカッコイイ!そして Stern (厳しい、過酷な)にはシビレました。

スターン!

そんな言葉、使ったことなかったぞ。響き、意味、ともにグッと来る単語をひとついただきました。