2010年12月31日金曜日

アメリカで武者修行 第32話 君をどんどん鍛えるからな。

四月の第二週。サンディエゴ支社での仕事を正式に開始しました。高速道路15号線沿い、オフィスパークの一角にある建物で、敷地の裏にはこじんまりとした牧場があり、数頭の馬がのんびりと草を食んでいます。レイオフの嵐を潜り抜け、先にここへ無事に流れ着いていた仲間達が、最後に漂着した私を温かく迎えてくれました。経理担当のシェイン、環境調査担当のティルゾ、そして我が戦友、ケヴィン。彼は既に窓付きの特大オフィスを与えられており、上下水道部門の若きエースという風格を漂わせています。

私はと言えば、プロジェクト・コントロール・エンジニアという立派な肩書きを貰いましたが、その実は「少々年を食った新米社員」。新卒のエンジニアと同じように、小ぶりなキュービクルにおさまって、新しいキャリアのスタートです。所属は、プロジェクトデリバリー部のプロジェクトコントロール課。同じ課の社員は全米のあちこちに散らばっていて、サンディエゴ支社にいるのは、私とボスのエドの他、エリカという女性社員です。
「よろしく。分からないことがあったら何でも言ってね。」
エドと同様、人柄の良さが滲み出す温かい笑顔。

彼女と少し話すうちに、どうして私がエドに拾われたのかが分かりました。数年前、大企業による不正会計操作事件が続々と発覚し世間を騒がせたことがありましたが、その反省から企業内の経営コントロール強化が法律で義務付けられたのです(サーベインズ・オックスリー法)。それで我が社もプロジェクト・コントロール課の増員が急務となり、私が雇われる運びになったのです。
「悪事を働いた人達が結果的に僕の苦境を救ってくれた、というわけだね。」
と私が笑うと、
「そうね。彼らに会うことがあったら、有難うって言わなきゃね。もっとも、当分は檻の中でしょうけど。」
とエリカ。

ボスのエドは、短い業務説明の後、
「七月に、二週間休みを取ってワイフとイタリアに行く予定なんだ。それまでに俺の代わりが務まるよう、君をどんどん鍛えるからな。」
と微笑みました。さっそく翌日から、大型プロジェクト20件を対象にした、二日連続の月次レビュー会議に同席しました。
「いずれは君にこの会議を仕切ってもらうからな。しっかり頼むぞ。」
とエド。

日本で働いていた頃も、これと似た会議はありました。しかし、電話会議という形態は初めてです。レビューを担当する重役達も、評価を受けるプロジェクトチームも、全米各地に散らばっています。一堂に会して実施するのは困難で、この形態を取らざるを得ないのです。今回は、仕切り役で副社長のアルがウィスコンシンからやってきて、エドと私、それにエリカと四人で会議室にこもり、ヒトデ形のスピーカーフォンを囲んで座りました。

指定時刻になると全米各地から続々と電話が入り、
「デビーよ。みんないる?」
「ミッキーだ。今日は寒いな。サンディエゴはどうだい?」
などと出席者を確認してから会議を始めます。参加者は常に十五人を超えます。エドがパソコン上に各プロジェクトの経営データを開いてスクリーンに投影し、アルや私はこれを見ながら会議を進めます。エリカは議事録係。出席者はネットミーティングという機能を使い、自分のパソコンでエドのパソコン画面を見ながら討論するのです。

プロジェクトマネジャー達は大抵一人で近況報告をし、それから重役達の質問に答えます。しかしそれは時に、詰問、尋問、拷問へとエスカレートし、答えに少しでも詰まろうものならたちまち袋叩きに会います。スケジュールの遅れ、クライアントとのいざこざ、品質管理など様々なテーマが話し合われるのですが、議論の焦点は詰まるところ、「どうやって金を回収するのか」。キャッシュフローが滞れば、自然とプロジェクトマネジャーに対するプレッシャーもきつくなって行きます。以前見た「フェイク」という映画で、アル・パチーノ演ずるマフィアの中堅幹部ソニーが、
「俺はラスティさんに毎月五万ドル納めなきゃならねえんだ。分かってんのか?これは遊びじゃねえんだぞ!」
とたるんだ手下どもをどやしつける場面がありましたが、本質的にはこれと何ら変わりません。命をとられることこそありませんが、いつクビになっても不思議はないのですから。かつての私の上司、マイクが毎月だんだんと怒りっぽくなっていったことを思い出し、今更ながら合点がいきました。

そんな緊迫した会議の連続ですが、もっとも緊張する瞬間が、それぞれのレビューの終了間際。アルが決まり文句のようにこう言うのです。
「さあ、誰か質問はないかな?ファイナンス・グループの諸君は?エドは?ない?それじゃあシンスケ、最後に何か質問は?」
質問なんてあるわけないじゃないですか!議論の中身は、99パーセント理解出来ないんですから。そもそも電話を通して聞く英語が分かりにくいのに加え、専門用語や略語がポンポン飛び出して、もうちんぷんかんぷん。必死に理解しようと努めても、為すすべも無く会話が猛スピードで頭の中を素通りして行きます。大変なのは、むしろ眠気との闘い。会議机の下で、太腿のあちこちをつねってこらえる私。二日間の会議が終了してスピーカーフォンのスイッチを切り、アルがエドと世間話を始めた時には、私は疲労困憊の態でした。

アルとエドの話題は、プロジェクトマネジメント講習会のことに移りました。我が社はこの年から、東海岸の各支社を皮切りにプロジェクトマネジャーのための集中トレーニングを開始したのです。エドは北米とカナダの諸都市を飛び回り、毎回教鞭をとっているのだとか。PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)の資格取得に向けて受験勉強を進めていた私は、この話題に食いつきました。教科書と問題集で基礎的な知識はほぼ吸収し終えていたため、そろそろおさらいのための講習を受けたくなっていたのです。サンディエゴではいつトレーニングが開催されるのか聞き逃さないよう、耳をそばだてていました。その時アルが、エドにこう尋ねました。
「君も大変だろう。人が少ないからその度に出張しなきゃいけないものな。秋の西海岸シリーズには社外から講師を補充しようか?」
するとあろうことか、エドがこう答えたのです。
「いや、これから急いでシンスケを鍛えるから大丈夫ですよ。」
するとアルがこちらを向いて、
「そうか、じゃあ秋からの講習会はシンスケに助太刀してもらおうじゃないか。」
冗談とも本気とつかぬ、二人の笑顔。反射的に、右手の拳を上げてガッツポーズで応えてしまった私でした。

緊張感に満ちた、新しい職務のスタートになりました。

2010年12月29日水曜日

Scrupulously explicit 一点の曇りも無く明瞭な

最近、三島由紀夫の「金閣寺」を拾い読みしています。使っているのは同じ日本語なのに、書く人が書くと一級の芸術品になっちゃうんだなあ、と一々唸っています。

「あの行為は砂金のように私の記憶に沈殿し、いつまでも目を射る煌きを放ちだした。」

う~ん、どうしてこんな表現を思いつくんだ?天才とはこういう人のことを言うんだろうなあ、とため息が出ます。ひとつ難点を言えば、彼の文章は一行一行が美しすぎて、ついついそこで立ち止まっちゃうこと。まるで美術館に陳列された豪華な反物をひとつひとつ眺めているようで、テンポ良く先へ進めない。

さて、私のボスのリックのそのまたボスに、クリスという副社長がいるんですが、彼の放つ言葉の壮麗さと言ったら、まさに三島レベルです。

先日の電話会議でのこと。クライアントから無理やりあてがわれた下請け会社の男が、まるで働かないという話になりました。その男のせいで工期が著しく遅れ、我々のコストも大幅に上がっているのです。この電話会議の前日、業を煮やしたクライアントが、遂に「奴をクビにせよ」と指示して来たというので、一同喜んでいたところ、クリスがこう言いました。

「ここは慎重に動く必要があるぞ。いくらクライアントからのお達しとは言え、下請け契約はあくまでもこの男と我々との間の話だ。ヘタをすると訴訟になるぞ。ここはもう一度契約書の条項を入念に洗い直し、彼をクビにすることの正当性を確認しなければならん。そして彼に対し、一点の曇りも無いほど明瞭な手紙を書かなくては。」

最後の部分を、クリスはこう表現したのです。

“We’ll have to write a scrupulously explicit letter.”

スクルーピュラスリィ エクスプリスィット??こんなフレーズ、初めて。Scrupulous というのは「きちょうめんな、慎重な」という意味で、explicit は「明確な、明白な」ですが、この畳み掛け方は尋常じゃない。私はただただ感心し、その後の議論をすっかり聞き逃してしまいました。

翌日、同僚マリアにその話をしたところ、
「すご~い。その単語のコンビネーションは、今まで一度も聞いたことないわ。」
と目を丸くしていました。これはネイティブ・スピーカーをも驚嘆させる、芸術的なフレーズなのでした。

2010年12月25日土曜日

On the back burner 後回し

昨日のこと。クリスマス目前で休みの人が多いため、仕事がピタリと止まっています。誰からもメールが来ない。ヒマ人同士、同僚リチャードと話していた時、
「あまりにもヒマだから、保険金請求用のレシート整理をすることにしたよ。ずっと後回しにしてたんだ。」
と言いました。この時、「ずっと後回しにいていた」の部分を、英語でこう表現しました。

It has been on the back burner.

ちょっと自信が無かったので、このフレーズがシチュエーション的に正しいのかどうか尋ねたところ、正解とのこと。ほっとしました。

この言い回し、サンディエゴで働き始めた8年前に同僚ケヴィンから聞いたのが最初でした。この時、二つの点で混乱しました。「バーナー」と聞くと、炎の力で鉄板などを焼き切ったりする道具を想像してしまうのですが、これは日本語でいう「キッチンコンロ」を意味しています。ここに「バック」を付けることで、「キッチンコンロの奥の方」となるわけなのですが、「バーナー」が横に二つ並んでるパターンに慣れていた私は、「奥の方ってどういうこと?」と疑問符アタマになっちゃったのですね。

でも、アメリカのキッチンコンロって、四つついてるのが標準みたいなんです。だから「奥の方のコンロに置いてある」、つまり「後回しにしている」というイメージがOKなんですね。今年でアメリカ暮らしも10年の私。ようやく違和感無く使えるようになったイディオムなのでした。

2010年12月24日金曜日

You Rock! あなたって最高!

火曜・水曜と二日に分けて、ウェブを使ったトレーニングを実施しました。生徒は、ラスベガスにいるエリカ、そしてヴァージニアにいるカレン。アシスタントは同僚マリアです。エリカとカレンは、来月スタートする巨大プロジェクト・レビューのコーディネータを務めることになっていて、それには我が社のプロジェクト・マネジメント・ソフトウェアの操り方を熟知している必要があります。それで私に、急遽トレーニングを依頼してきたというわけ。

さて、昨日木曜日はクリスマス連休の一日前とあって、オフィスが幽霊屋敷状態。電話もかかって来ないしメールもほとんど届かない。サンディエゴ支社は「コの字型」の建物になっているのですが、私の働くウィングには昨日、私ひとりしかいませんでした。

3時ごろ帰り支度をしていたら、エリカからメールが届きました。

Thanks for the awesome training the last two days. It was very helpful.
二日間、素晴らしいトレーニングを有難う。すごく助かったわ。

そして、こう文章を締めくくっています。

You Rock!!!
あなたロックする!!!

う~ん、何だこれ?ポジティブな響きは伝わるんだけど、なんで「ロック」なの?で、調べたところ、これは「すごい」とか「最高」とかいう意味で、もともとはロックン・ロールから来ているのだろう、とのこと。

中庭を挟んだ向かいのウィングで、この日同じように寂しくひとり仕事していたリチャードのところへ行き、確認します。
「これ、great (グレート)とか awesome (アーサム)とはどう違うの?」
「同じ意味だけど、すごく近しい人にしか使わないな。」
「上司には?」
「使わない方がいいんじゃないかな。たとえ長く一緒に仕事した相手でも、本当の意味で打ち解けてなければ使わない表現だと思うよ。」

エリカとは、公私に渡り、長年の付き合いを続けてきた間柄です。最高級の褒め言葉をもらったんだなぁ。

You Rock!!!
あなたって最高!!!

2010年12月20日月曜日

It’s raining cats and dogs! 土砂降りだよ!

週末から雨が降り続いています。カリフォルニアの北部では、豪雨に見舞われて土砂崩れ警報を受けている町もあるそうです。

中庭に降りしきる雨を眺めながら、元ボスのエドに、
「Rain cats and dogs って古い言い回しがありますけど、今でも使うんですか?」
と尋ねてみました。すると、
「ああ、しょっちゅう聞くよ。竜巻で巻き上げられた犬や猫が空から降ってくるほどの嵐、っていう絵をイメージしてるんだけど、違うかな?」
それは竜巻の凄さであって雨の降り方とは関係ないよな、と心の中でけちをつけながら同僚リチャードに同じ質問をしたところ、やはり普通に使っているフレーズだとのこと。
「ちょうど今朝、語源を書いたメールが回ってきたんだよ。転送するね。」

このメールによると、
「昔の家は気密性が低く、屋根を葺いたワラの中が一番暖かかった。犬や猫はよくその中に忍び込んで眠ったが、大雨が降るとこれが上から落ちて来た。」
が語源だというのですが、どうも信憑性に欠ける気がします。猫はともかく、犬が屋根に上るだろうか?

色々調べたところ、一般に受け入れられている説は五つ以上(迷信から来ている、ギリシャ語から来ている、とか)あり、ウィキペディアでは「語源不明」とされています。しかしどれもこれもピンと来ない。どこか無理があるんだよなぁ。

調べを進めるうち、ようやく私にも納得できる回答が見つかりました(正しいという保証はないですが)。

このフレーズが初めて公式に使われたのは、「ガリバー旅行記」のジョナサン・スウィフトが1738年に出した “A Complete Collection of Polite and Ingenious Conversation” だそうで、ここにこんなセリフが出てきます。

“I know Sir John will go, though he was sure it would rain cats and dogs.”
「サー・ジョンなら行くだろう。土砂降りになることを彼は知っていたけれど。」

そしてその28年前、スウィフト自身の書いた詩にこんな一説があるそうです。

Sweeping from butchers’ stalls, dung, guts, and blood;
肉屋の屋台から糞やら内臓やら血が流されてきて、
Drown’d puppies, stinking sprats, all drench’d in mud,
溺れた子犬やら臭いを放つ魚やらが、泥の中でびしょ濡れだ。
Dead cats, and turnip-tops, come tumbling down the flood.
死んだ猫やカブのヘタが大水の中でぐるぐる暴れまわってる。

ものすご~くグロテスクだけど、これでしょ、これ!犬や猫が「押し流されてしまう」ほどの豪雨。「天から降ってくる」よりもよっぽど筋が通ってる。当時のスウィフトなら、「あぁ、あのガリバーの!」って感じで売れっ子だったに違いないし、自ら創作した表現を後に自著の中で「皆さんご存知の」ってノリで用いたとしてもおかしくない。

私はこの語源を信じることに決めました。

2010年12月19日日曜日

Distinct Voice 独特な声

先日、カマリロまで走って二日間滞在し、プロポーザル作りの手伝いをしました。この支社を訪問したのは初めてで、もちろんプロポーザル・マネジャーのマイクとも初対面。彼の奥さんが日本人だという話からたちまち打ち解け、急ごしらえながら強力タッグで仕事を進めました。
「そうだシンスケ、このオフィスにいるチーム・メンバーを紹介しておくよ。」
マイクに連れられ、部屋をひとつひとつ訪ねて回りました。
「あ、大事な人を忘れるところだった。あそこで立ち話している男性がいるでしょ。」
そう言って廊下の先に立っている二人の男性を指差した後、彼がこう言いました。

“The guy with a distinct voice.”
ディスティンクトな声の持ち主。

この時、distinct という単語が頭に張り付きました。かっこいい響きだな、というだけの理由ですが。

しかしその後、意味を考えるにつれ、頭が混乱し始めました。Distinct と Distinctive はどう違うんだろ?どっちも形容詞で、辞書を調べても同じように「独特な」という意味になってます。で後日、同僚達に質問して回ります。するとなんと、マリア、リチャード、そして弁護士のラリーまで、空を見つめて黙っちゃったんです!これは、ネイティブ達をも困らせる、超難問だったのですね。「じゃ、宿題ね。明日また聞くから。」と言い残して立ち去ったのですが、その晩リチャードが、律儀にも回答を送って来ました。

それによると、distinct は「はっきりそれと分かる、他と区別出来る」という意味で、distinctive は「個性的な」というニュアンスなのだそうです。

The hallway has a distinct smell of soap.
廊下で石鹸の匂いがしてるのはちょっと普通じゃないのでこう表現してる。

The bathroom has a distinctive smell of Ivory Soap.
この場合、石鹸の中でも「アイボリーソープの匂い」と特定している。

う~ん、なんだか分かったような分からないような。

「じゃさ、彼は distinct voice の持ち主だ、というのと distinctive voice の持ち主だ、という表現はどう使い分けるの?」
と、翌朝尋ねてみました。するとリチャードはこう答えます。
「僕がその人を個人的に良く知ってたら、 distinctive を使うと思うよ。大して知らない人の声を指す場合なら、 distinct voice って言うだろうな。」

今度は分かりました。勉強になりました!

2010年12月17日金曜日

That’s water under the bridge. すんだ事だ。

本日も、マネジメント層とプロジェクト・マネジメント・チームとの電話会議がありました。最終コストの予測をめぐって議論が紛糾します。大ボスのエリックが、チームの過去の意思決定について恨み言を言います。
「クライアントにこの件を依頼された時に、変更申請をすべきだったんだよ。」
プログラム・マネジャーのダグがこれに同意します。
「エリックの言う通りだ。もう少し注意深く対応していれば…。」
一同、悔しげに唸ります。その時、エリックのコメントが私を煙に巻きました。

“That’s water under the bridge.”

え、何?橋の下の水?

真っ先に頭に浮かんだのが、印象派の巨人モネの、「睡蓮の池 緑色のハーモニー」。橋の下の水がどうしたっていうの?

まだ緊迫した電話会議が続いているというのに、ネットをあちこち覗いて調べました。なんと、この「水」は「川」のことだったのです。「橋の下の川。」橋から見下ろした川は常に流れていて、いつまでもそこに留まってはいない(モネの絵じゃ、水は淀んでるけど)。つまり、過ぎてしまったこと、起きてしまったことはどうしようもない、あれこれ言うのはもうやめよう、という意味ですね。

あとで同僚マリアの部屋を訪ね、
「That’s water under the bridge. ってフレーズ、使うことある?」
と聞いてみました。
「そうね、できれば口にしたくない表現よね。だって、何か嬉しくないことが起きた時に使われる言い回しだもの。」
とのコメントでした。

このフレーズを使うためには、誰かの過去の過ちをわざわざ蒸し返す必要がありそうです。

2010年12月16日木曜日

Mumbo Jumbo わけのわからない話

年末です。期末決算の数字がこの一週間の行動にかかっているので、管理職が皆ピリピリしています。今日の電話会議で、大ボスのエリックがこんなことを言いました。

“I’m sorry to get you involved in this financial mumbo jumbo.”
「君たちを財務上のマンボ・ジャンボに巻き込んですまないな。」

マンボ・ジャンボ??

これ、わりと良く耳にする表現なのですが(マンボゥ・ジャンボゥという発音)、今日まで意味を知らずにいました。もちろんすぐに調べましたが

これは、池袋のサンシャイン水族館にいる巨大なマンボウのことでもなく、マンボ楽団の名前でもなく、ヤンマー提供の天気予報に出てくるキャラクターのことでもありません(ちょっとしつこいか)。

Mumbo Jumbo とは、わけのわからない話や儀式、手続きなどを差すのだそうです。たとえば、我々エンジニアの話す技術的な内容は、経理の人にとってはマンボゥ・ジャンボゥだし、逆もまた真なり。そもそもは西アフリカの守護神の名前だそうですが、どこかの部族が良く分からない神を崇拝しているというところから、「意味の分からない儀式」という意味に転化したようですね。

2010年12月15日水曜日

Omen 前兆

昨日、観葉植物の水遣りに来ている外部業者のメアリーが、日曜に起きた不思議な出来事について話してくれました。

旦那さんと二人、コンバーチブルのSUVで出かけた帰り、つづら折りの山道を運転していた彼女。日もすっかり暮れ、顔に受ける風が冷たくなってきた頃、突然左のこめかみに激しい衝撃を受けました。一瞬ショックで口が聞けなかったのですが、助手席の旦那に、
「何かが飛んできて私の頭に当たった!」
と伝えました。山道で暗かったこともあり、二人にはぶつかったモノの正体が分かりません。
「車を停めよう!」
と提案する旦那さん。
「路肩が無いのよ。こんなところで停めたら後ろから来た車に激突されるわ。」
頭に衝突した後、肩に滑り落ちていた得体の知れないものが、今度は座席の背と自分の背中との間にずるずると落ちて止まりました。それが微妙に動いています。
「鳥じゃない?すごく大きい鳥よ!」
パニックに陥るメアリー。1マイルほど走ったところで、ようやく路肩を見つけて停まりました。後ろを見ずに車を飛び降りる彼女。背後で旦那さんがその物体に手を伸ばすのが分かります。
「ふくろう(Owl)だよ。ふくろうが飛んできて君にぶつかったんだ。こりゃ大きいぞ。見てみるかい?」
「やめてよ。見たくないわ。何とかして!」
「分かった。このまま地面に下ろすよ。」
「死んじゃったの?」
「う~ん、分からない。多分生きてると思う。気絶してるんじゃないかな。そのうち息を吹き返すだろう。」
運転代わるよ、とご主人に言われ、
「ダメ。ただじっと座ってたら余計なこと考えちゃうから、運転続けさせて。」
とエンジンをかけるメアリー。

「一体全体、どうしてふくろうが私の頭にぶつかって来たのかしら?百万分の一もない確率でしょ。私、ミシガンやコロラドの田舎に住んでたこともあったけど、これまでふくろうを目撃したことすら無かったのよ。」
と、いまだに興奮さめやらぬ様子の彼女。
「まさか南カリフォルニアでそんな目に会うとはね。」
と私。旦那さんにこう言ったそうです。

“Is this a good omen or bad omen?”
「これは良い前ぶれ、それとも悪い前ぶれ?」

オーメンというのは前兆、とか神のお告げ、という意味ですが、映画「The Omen」の強烈な印象のお陰で、不吉な言葉だとばかり思っていました。極めて中立な単語だったのですね。

2010年12月14日火曜日

Jinx 不運をもたらす

今朝、プロジェクトマネジメントのソフトウェアの動きが異常な遅さだったので、同僚マリアのところへ様子を見に行きました。
「システム、ちゃんと動いてる?」
すると彼女は、
「私のは大丈夫だけど。」
と答えます。
「そうか、じゃ、僕のコンピュータの問題かな。」
首を傾げながら自分の部屋に戻ったのですが、一分ほどしてマリアがやって来ました。

“You jinxed me!”

「シンスケに言われた途端、ものすごくスローになっちゃったじゃない!」
と笑いながら文句を言ってます。

ジンクスという言葉は、「2年目のジンクス」のように、のろいに似た悪運を表す表現として記憶していました。動詞として使われるのを聞いたのはこれが初めてなので、説明してもらいました。
「シンスケが不運をもたらしたってことよ。」

なるほどねえ。帰宅して語源を調べてみると、古代ギリシャ語で iunx と呼ばれる、挙動不審な鳥(キツツキの一種で、英語ではwryneck)にまつわる迷信から来ているという説が有力みたいです。しかしこれも定かではなく、あるサイトでは、 “Captain Jinks of the Horse Marine” という歌が最初だ、という説が紹介されていました。ドジな兵隊のキャプテン・ジンクスが隊を追い出される、という話だそうです。ま、こういうのは語源にこだわらず使うことにしよう。

2010年12月13日月曜日

Entourage 取り巻き

土曜の晩は、サンディエゴ支社のホリデー・パーティがありました。高速8号線沿いに「ホテル・サークル」と名のついたホテル密集地帯があるのですが、その中のひとつ、ダブルツリーホテルの宴会場を借りてのイベント。配偶者または恋人同伴で出席するならわしなので、うちも夫婦で参加しました。円卓で隣に座ったのはケリーとその恋人、トム(だったっけかな?)。女子社員の彼氏が彼女の勤める会社の忘年会に来る、というのは日本ではあまり聞かないけど、こっちじゃ当たり前みたいです。

ケリーは、私が高速道路設計プロジェクトに参加した頃、はす向かいのキュービクルで働いていました。当時は彼女、大学を出たばかりで初々しかったのですが、今じゃ立派なレディです(表現がオヤジっぽいが)。あのプロジェクトの後、会社を三つ替わり、巡り巡ってまた私と同じ職場に。まさに、 “It’s a small world!” です。

今回初めて知ったのですが、ケリーは数年前、転職の合間に8ヶ月だけ中国に渡り、英語の教師をしたというのです。上海から内陸に2時間ほど入ったところにある小さな町で、滞在中、他の白人とは一度も会わなかった、というくらいの田舎。
「皆にじろじろ見られたんじゃない?」
と聞くと、
「見られたなんてもんじゃないわよ。どこへ行っても、あっという間に人だかりが出来るの。美容院に行ったらぞろぞろ人が集まって来て、床に落ちた金髪を持って行ったりするのよ。出勤しようと寮を出ると、大抵3人以上は誰かドアの前で待ち構えていて、私と一緒に歩こうとするの。一人の時間を作るのがとっても大変だった。」

「でもね、8ヶ月の勤務を終えてロスの空港に着いてみたら、誰も私のこと見てないの。人だかりが出来ないどころか、自分をじろじろ見る人がいないってことが、暫くは不思議で仕方なかったのよ。おかしいでしょ。」
と笑うケリー。その時、隣に座ってずっとニコニコしていた彼氏が口を開きました。

“Now you miss your entourage.”
取り巻きが懐かしくなったってわけだ。

この「Entourage (アントラージ)」というのは、「側近」とか「取り巻き」という意味ですが、ちょっとスペルが覚えにくい単語です。調べたら、フランス語由来だそうで、道理で、と思いました。政治関連のニュースなどでよく耳にするのですが、今回調べるまで綴りを知りませんでした。この機会に覚えてしまうことにしました。

綴りは、「エントウレイジ」と覚えましょう。遠藤怜司、って人の名前みたいだけど。

慰めの英語表現

サクラメント支社のデニスから、さきほどメールが入りました。数ヶ月前に私の参加したプロポーザルが、競合に負けたという報せ。しかもクライアントの採点表までが添付されています。プロポーザルそのものだけでなく、プレゼンに対する評価も三社中最下位。ガ~ン!!

まあ、よく考えたら私のような外国人を中心メンバーに据えて戦わなければならなかったのだから、勝てるわけが無かったんだよな。しかし、だとしても悔しい!それに、元上司のエドの代打として主役を買った手前、彼に対して申し訳ない気持ちで一杯です。

デニスからのメールをエドに転送して悪いニュースを伝えたところ、彼からこんな返信が来ました。

Don’t take it too hard.
あまり深刻に考えるなよ。

おお、この表現はシンプルだけど、人を慰める時に使えるな、と思いました。さらに彼がこう続けます。

Not sure if I would have done any better.
俺の方がうまく出来たかだって怪しいよ。

出ました仮定法!ずっと苦手にしてるんだよな、これ。いい機会なので、フレーズごとまるまる覚ることにします。

(I'm) Not sure if I would have done any better.

2010年12月11日土曜日

アメリカで武者修行 第31話 たわ言もいい加減にしなさい!

ある日のこと、州政府からプロジェクト・チームに派遣されていた若い男性社員のダリルが、私のキュービクルにやって来ました。
「シンスケ、この手紙、ちょっと見てくれる?」
渡された英文にざっと目を通してから顔を上げ、
「読んだけど、これがどうしたの?」
と尋ねると、
「僕が書いたんだけど、英語、おかしくない?おかしいところがあったら直してくれる?」
耳を疑いました。日本からやってきてまだ3年半。その私に英語をチェックしてくれだって?!
「よく書けてると思うよ。」
と感想を伝えると、
「そう、良かった。どうも有難う。」
「ちょっと待った。」
笑顔で去ろうとするダリルを慌てて呼び止め、こう質問せずにはいられませんでした。
「どうして僕に見てもらおうと思ったの?」
すると彼はポカンとした表情になり、
「えぇっと、誰だったっけ。誰かから、ビジネス文書はシンスケにチェックしてもらうといいって言われたんだよ。」

過去一年、弁護士である上司のリンダから、鬼のような英作文の指導を受けて来た成果が、初めて具体的な形で現れた瞬間でした。彼女の赤ペンで原稿が真っ赤に染まっていた日々のことを思い出し、感謝の気持ちが胸にこみ上げて来ました。

さて、待ちわびていたエドからの電話を受けたのは、二月中旬の月曜でした。
「ボスからの承認が下りたよ。来月初めから俺のところで働いてもらいたい。」
遂に失職の危機を脱したのです。急いで妻に電話をかけ、喜びを分かち合いました。リンダに伝えると、ニッコリと微笑んで祝福してくれました。ジョージもこのニュースを喜んでくれました。
「それは良かったな。しかし三月にサンディエゴ支社勤務がスタート出来るかどうかはまだ分からんぞ。クレーム文書の仕上げをそれまでに終えられるとは到底思えんからな。私からエドと話して調整しておく。」

翌日、エドから電話が来ました。
「ジョージが君を暫く貸してくれと言うんだが、今の仕事を仕上げるまでにどのくらいかかると思う?」
と尋ねます。およそ一ヶ月と答えると、
「分かった。それじゃあしっかり残務を片付けて、綺麗な身体でうちへ来てくれ。」
と言いました。

二月後半のある日、リンダが低い声でこう言いました。
「裁判に持ち込もうという動きを、彼らに勘付かれたようよ。ORGの上層部が、クラウディオに話し合いを申し出たんですって。」
およそプロフェッショナルとは思えない「知らぬ存ぜぬ」の手紙を元請会社ORGから受け取った直後、我々設計JVは、遂に最後の手段に出ることにしたのです。未解決のクレーム約五十本を束ねて裁判にかけるという作戦。最終決着をつけるべく、ひとつひとつのクレームを細かく点検し、モレやダブリを排除した損害請求額の積み上げ資料を作成するための、本格作業が始まりました。同じ建物の一角で働く元請会社の連中にバレないよう、極めて慎重に進めていたつもりだったのですが、ついに気付かれた、ということでしょう。

裁判になればマスコミにも取り上げられ、社会的信用失墜の憂き目を見ることは確実です。勝っても負けても双方が高額の弁護士費用を支払うことになるため、よほど巨大なプロジェクトでないと、こういう事態にはなかなか至りません。よもや裁判にはなるまいと、彼らも高をくくっていたのでしょう。

リンダと私の会話に途中から加わったティルゾが、こう付け足しました。
「うちのドキュメント・コントロール・システムの威力が、ようやく彼らにも分かって来たみたいだな。我々の裏づけ資料の質の高さに舌を巻いてるって話だよ。」
元請会社のORGは、恐ろしく旧態依然とした資料管理体制を維持しています。二人の女性社員が倉庫の戸口に机を並べ、問い合わせのあった資料を手書きの帳面から探し出し、番号を見ながらダンボール箱を引っ張り出す、というシステム。これでは、情報戦において我々と太刀打ち出来るわけがありません。

「トップ会談で訴訟回避という結論が出るかもしれないけど、どっちに転んでも損害賠償は請求するわよ。ぐうの音も出ない、完璧な書類を仕上げましょう。」
と、リンダが気合を入れます。PB社のアトランタ・オフィスから送り込まれたプロジェクト・コントロールの専門家フランクがデータをまとめ、それを受けて私が図表を作成、リンダが文書を練り上げるというチームプレーが、来る日も来る日も続きました。どのタスクのために誰が何時間働いたが、契約上は何時間という前提だった、という比較表を作ったり、コンピュータのサーバー使用料の分担額を決めるため、過去十数ヶ月の名簿を集めて各社の人数表を作ったり、と極めて地味な、しかし忍耐力を要求される業務です。

その間にクラウディオとジョージは、プロジェクトオフィスで働いて来たメンバーのほぼ全員を引き上げさせました。自分のオフィスから派遣されていた者は元のポジションへ戻り、このプロジェクトのために外部から雇われた者は解雇、という形で。総務・経理担当のシェインや環境担当のティルゾは、サンディエゴ・オフィスへの異動が決まりました。

最盛期には60人ほどいたチームですが、今ではクラウディオとリンダ、それにフランクと私の4人だけ。運命とは皮肉なもので、不慣れな契約の仕事についたお陰で、ここまで生き延びて来られたのです。もしも私が技術屋として雇われていたら、とっくに解雇されていたことでしょう。

その後、データ整理にけりをつけたフランクがアトランタへ戻り、とうとうリンダと私、そしてクラウディオの3人だけとなりました。建物のコーナーにある二部屋を三人で分け合い、残りは完全な無人。まるで幽霊城の一角に灯りが点っているような、不気味な光景です。

4月後半。クレーム文書の作成も大詰めを迎えたある日、リンダが書類を手に私の横に立ち、興奮した声で言いました。
「これは私が頼んだ積み上げ方と違うわ。どういうこと?」
渡された書類に目を通し、私が答えます。
「いえ、頼まれた通りですよ。契約外(Out of Scope)と明確に判断できるタスクに絞って積み上げたつもりです。」
「グレーな部分も加えるはずだったでしょう?」
「それはおかしいんじゃないですか?ひとたびグレーな部分を含め始めれば、クレーム全体の境界線が曖昧になって、裏付け資料としての強さを失ってしまうと思うのですが。」
リンダの顔がみるみる紅潮してきました。
「つべこべ言わずに私の言う通りにするのよ。」
鬼の形相です。ふと気がつくと、私は彼女の目を正視し、こう静かに答えていました。
「いいえ、それは出来ません。明確に契約外と言い切れる案件のみを積み上げるべきだと思います。」
不思議なくらい冷静でした。臆することなく、己の信ずるところを彼女に伝えようとしていました。
「Bullshit! (たわ言もいい加減にしなさい!)」
彼女はそう叫ぶと、肩を怒らせて部屋を出て行きました。少し間を置いて、リンダに本気で刃向かったのはこれが初めてなのだという自覚が脳に到達しました。顔がどんどん赤くなって行くのを感じます。一人残された私は、自分の鼓動を大音響で聞いているような気分でした。しかし五分ほどして戻ってきた彼女は、ケロリとした笑顔で私の机の端に腰掛け、穏やかな声で謝罪しました。
「さっきはごめんなさい。あなたの言う通りよ。そのまま続けてちょうだい。」

その翌日、久しぶりにプロジェクト・オフィスにやって来たジョージが、
「シンスケをこれ以上プロジェクトに留めておくことは出来ない。新しい仕事も滞っているし、彼をこの任務に就かせたことで何万ドルか余分に予算を使ってしまったからね。」
と、4月の最終金曜日に私を引き上げさせることをクラウディオに告げました。この後のクレーム文書の行方は、リンダの双肩にかかることになりました。

そして最終日の夕方。がらんとした部屋で椅子に腰かけ、こちらを振り向いたリンダに、まるで翌週もまた一緒に仕事するかのように、
「See you! (じゃ、また!)」
と挨拶し、プロジェクト・オフィスを後にしました。握手も抱擁も、そしてこうした場合に通常交わされるであろう、心温まる送別の言葉もなく。

そしてそれきり二度と、彼女と会うことも、話すこともありませんでした。

2010年12月10日金曜日

Lower the boom 厳しく叱る

先日の夕方、コンストラクション・マネジャーのトム、そしてPMのエリックと打ち合わせをしていた時のこと。その日の午後に、現場で大きなミスをやらかした男の話になりました。巨漢のトムがむっくりと椅子から立ち上がって、エリックにこう言います。

“Do you want me to lower the boom on him?”

私が食いつかないわけが無いのを知りながら、わざとこういう表現を使うんですよ。トムって奴は。
「ちょっと待って。それどういう意味?」

二人で代わる代わる解説してくれたところによると、そもそもこれは船乗り言葉から来ているとか。船の帆を張るためにはマスト(縦棒)とブーム(横棒)が必要で、このブームにぶっ飛ばされると大怪我はおろか命さえも落としかねない(そういえば昔ヨットに乗せてもらった時、耳にタコが出来るくらいしつこく警告を受けました)。
「ブームを下げる」というのは文字通り、誰かをこっぴどくぶっ叩くということなのだ、と。

家に帰ってネットで調べたところ、その語源には諸説あることが分かりました。

1.クレーンの「ブーム」説。その形が、拳を握って突き出した親指を下に向けた状態の腕に似ていることから、何かにダメ出しする、という意味になった。

2.劇場の舞台裏で、背景画を移動させる時に使う棒。これが頭に落ちて来たら大怪我です。

総合すると、こういうことでしょうか。

“Do you want me to lower the boom on him?”
「奴にゲンコツ食らわして来ようか?」

2010年12月8日水曜日

Will you marry me? 結婚してください。

日曜の晩、ロングビーチでパーティがあったので行ってきました。クリスチャン技術使節団の一員としてウガンダで学校建設プロジェクトに参加していた元同僚のデニスが、二年ぶりに帰って来たのです。しかもアフリカで出会った女性と結婚式まで挙げて。

彼の古くからの教会仲間、ノーマンの住むアパートの共有施設内に、小ぶりなパーティー・ルームがあるのですが、ここへ30人くらいのゲストが詰めかけました。私の姿を認めるや、握手の手を差し伸べて近づいて来たデニスですが、私の表情に再会の興奮を見て取ったようで、さっと両手を広げてがっしりと抱擁してくれました。う~ん、こういうの、いいね。

新妻のサラを紹介してくれた彼は、矢継ぎ早に繰り出す私の質問にどんどん答えてくれていたのですが、次々に訪れるお客さんを迎えるために席を外さなければなりませんでした。永住権は持つものの、アメリカ市民権の無いカナダ出身のデニスは、奥さん(南アフリカ共和国籍)のグリーンカードをサポート出来ません。つまり、3ヶ月の観光ビザしか取得出来ないのです。本当はアメリカで暮らしたかったのですが、やむなく生まれ故郷のカナダで新婚生活をスタートすることになりました。このパーティは、「お帰りなさい」そして「結婚おめでとう」と同時に、「元気でね」の会だったのです。

パーティの後半、ケープタウンで行われた結婚式とレセプションのビデオが上映されたのですが、その際の新郎新婦のスピーチで、プロポーズのエピソードが紹介されました。
「去年の秋、彼女を連れてロングビーチを訪れました。」
とデニス。サラが、
「朝起きた時、海岸を散歩しようって彼に誘われました。遊歩道から階段を何段も下りたところに砂浜があるんですが、ふと彼が指差す方を眺めると、砂の上に巨大な字で、WILL YOU MARRY ME? って書いてあったんです。まぁ素敵ねって言いながらよく見ると、私のニックネームのPIPって字が添えてあります。あら、私と同じ名前じゃない!って笑って彼を見たら、すごい真剣な表情。そこで初めて、これは彼が書いたんだって気がついたんです!」
やるじゃないか、デニス。夜明け前、彼女が眠ってる間にこっそり抜け出して、大急ぎで書いたんだと。かっこよすぎるだろ~。続いて、YES と砂に書いてこちらを見上げる彼女の写真が映り、会場は拍手喝采。

さて例によって、私はここでまた引っかかります。なんで、

Will you marry me?

なの?なんだか、Will ってぶっきら棒でちょっと偉そうな感じがするんです。

Will you go to school tomorrow?

みたいに、単に予定を尋ねてるような、淡白なイメージを受けたんです。で、本日同僚のスティーブンに質問しました。すると、 “Will you…?” は淡白でもなければ偉そうでもないと言います。私が、
「Would you? とか Could you? だとどう違ってくるの?」
と聞くと、Would you? と Will you? はほぼ一緒だと答えました。
「ただし、Could you marry me? だと、I could, but I won’t! って厳しい答えが返って来そうだね。」
と笑いました。

Will you marry me?

は相手の意思を聞いているのであって、予定を尋ねているわけではない。Would you も同じ。この場合、どちらでもいい、と言うのです。
「だって、映画だと十中八九、Will you marry me? って言うでしょ。Would you なんて、聞いたことないよ。」
と食い下がったのですが、スティーヴンはこう答えて私を黙らせました。
「僕だったら断然、 Would you marry me? って言うよ。」

ふ~ん、そうなの。でも、まだ腑に落ちない。スティーヴンを信用しないわけじゃないけど、もうちょっとしつこく調べを進めてみようと思います。

{追記}

今日、マリア(独身)に聞いてみました。
「本質的には同じだけど、微妙な違いはあると思うわよ。」
Will you? と Would you? では、言われた側の心証に差があるというのです。そうだろうと思ったよ!
「Would you marry me? って聞かれたら、相手が本気で言ってるのかどうか、ちょっと疑う気持ちが湧くかもしれない。探りを入れてるだけって可能性もあるし。つまり、その意思があるかを聞いてるわけでしょ。Will you? って聞かれたら、これは間違いなく結婚を申し込まれてるんだって思うわね。だって、行動するかどうかを聞かれてるんだから。」

Would you marry me?
僕と結婚する気ある?

Will you marry me?
僕と結婚してください。

こんなところでしょうか。マリアは少し考えてから、
「この話題、面白いわね。今度女友達だけで集まる会があるから、そこでアンケート取ってみる!」
と言ってくれました。

2010年12月4日土曜日

Feel like a mushroom. マッシュルームみたいな気分?

今日の午前中、ニューポートビーチ支社まで車を走らせ、南カリフォルニアのコンストラクション・マネジメント・グループの会議に出席しました。これはネットワーキングを主目的とした集会で、四半期毎に開かれています。私はこれまで皆勤賞なのですが、今回ばかりはサボっちゃおうかな、と少し腰が引けていました。今日のプレゼンのテーマは “Pipe Bursting” で、思い切りハード・コアな工事モノを予想していたからです。現場で生の工事に関わる必要がほとんど無いので、はっきり言ってあまり関心がない。わざわざ土曜日に長距離ドライブした挙句、あくびたらたらの3時間を過ごすというのは割に合わないと思ったのです。

ところがところが、このプレゼンが予想外に面白かった!敷設されたのが50年以上前で、今じゃ穴だらけの下水道管を、土を掘り返すことなく新しいのとすげ替える、という最新工法のケース・スタディ。およそ20年前に私が下水道工事を担当していた頃には、想像もつかなかったような高度な技術です。これを、この道30年のデイヴと新進気鋭のエンジニアのロバートが、ビデオを交えて紹介してくれたのですが、騒音も振動も低レベルで、エレガントとしか言いようの無い見事なワザ。コストも4割近く削れるというし、言うことないじゃない!劣化したパイプを破砕しながら新しいパイプを先導して行く “Expander” の姿は大蛇の鎌首さながらで、これがずぶずぶっと土に食い込んでいく様子はエロチックでさえあります

会議の締めに、リーダーのジムが、
「一人ずつ、この定例会の好きなところ、嫌いなところを言ってもらおうかな。」
と発言を促し、私は今回のプレゼンで視野が広がったことへの感謝を述べました。他の出席者からの発言の中で頻繁に使われた表現に、こんなものがありました。

“I have been feeling like a mushroom.”
ずっとマッシュルームみたいな気分でいる。

「こういう機会でも無いと、来る日も来る日も限られたメンバーとしか顔を合わせない。会社で一体何が起こってるか、さっぱり分からない。だからこれは自分にとって、とても貴重な集会なんだ。」
と続くことから、大体の意味は分かります。でも「マッシュルームみたいな気分」に共感出来るほどは理解出来てない。

で、調べたのですが、あまり良い説明が見つかりません。色々なサイトの解説を総合すると、
1.肥料に便を使う(ほんとかな?)ことから、Feed shit される(クソをかけられる)、割に合わない思いをさせられる、という意味。
2.マッシュルームというのは暗がりで栽培される(Kept in the dark)ことから、Keep someone in the dark (情報を与えないで放っておく)という言葉とのシャレになっている。

の組み合わせみたいです。つまり、現場事務所に長期間勤めてると、いい思いをすることもなく情報が遮断された状態に置かれてる、という意味だと思います。ちょっと可愛い表現じゃん、と一瞬思ったけど、あまり使わない方が良さそうですね。

2010年12月3日金曜日

Crack Up 大爆笑!

昨日と今日は、オレンジ支社へ出張していたのですが、休憩室のコーヒーメーカーが新しくなっているのに気付きました。カップを置くと次々に液晶表示の指示が出て、ボタンを押して行くと好みのコーヒーが出来上がる、という仕掛け。以前の型と比べると、ずっと洗練された近未来的なデザイン(ほめ過ぎか?)で、感心してそばにいたエンジニアのベスに、
「何だかSF映画に出て来そうなコーヒーメーカーだね。一瞬、喋り始めるかと思って期待しちゃったよ。」
と話しかけました。すると彼女が、
「喋ると言えば、こないだうちの車にナビゲーター付けたんだけど、これが音声認識タイプなのよ。初めて使う時、家族みんなでわくわくして見守る中、私が恐る恐る行き先を告げたの。そしたら、 “Pardon?” (と言いますと?)って聞き返されたのよ!」
と笑い、続けてこう言いました。

“We all cracked up!”
もうみんな大爆笑よ!

この表現、笑える話を聞くたびに登場するんだけど、どうもしっくり来なくてずっと使えずにいました。だって、クラックって亀裂のことでしょ、老朽化したコンクリート構造物によく見られるヤツ。ベスの発言では動詞として使われてる上に、「アップ」までくっついてます。一体どういうこと?

で、調べました。さっそくながら、動詞には「音をたてて割る」とか「ヒビを入れる」とかいう意味があることが分かりました。あ、そうか、「くるみ割り人形」は「ナットクラッカー」じゃん。何故そこに思い至らなかったのか…。でもやっぱり、大笑いという意味での「クラックアップ」には繋がらない。

ようやく合点が行ったのは、「(乗り物などが)大破する」という意味があるのを知った時です。そうか、大笑いする図というのはまさに「大破する」感じだもんな。くるみを割って殻から実から、みんなバラバラに弾け飛んだような…。ようやくすっきりしました。

ところで、私の持っている辞書には「精神的におしつぶされる」という訳が最初に載っていたのですが、同僚のスティーヴンに尋ねたところ、
「いや、その意味で使われてるのは聞いたことないな。」
とのこと。彼がこの言い回しを聞いた時は、まず間違いなく「大笑い」という意味に取るそうです。