2010年11月30日火曜日

Dog and pony show ちょっとしたプレゼン

昨日カマリロ支社のマイクと電話で話していた時、彼がこんなことを言いました。

So we did a dog and pony show.

文脈から察するに、新しいクライアントを訪ねてプレゼンをした、という意味。この dog and pony show という言い回しは、こんな場面で過去何回も聞いているのですが、一度もきちんと調べることなく今日まで来てしまいました。で、さっそく調査。

もともとは、19世紀末から20世紀初頭にかけて盛んだった小規模な(ライオンや象みたいに立派な動物ではなく、犬や仔馬を見世物にして小さな町を回っていた)サーカス興行を意味していたそうですが、それが転じてプレゼンテーションを指すようになったのだそうです。へえそうなんだ、と納得しそうになったけど、ちょっと待てよ。問題は、この言い回しが「どういう含みをもって」使われるか、です。安っぽいプレゼンなのか、はたまた上出来なプレゼンを指すのか。英辞郎には、「つまらない見世物、新製品の展示(実演)、最高のできばえ」とあります。困ったことに、マイクの発言はどれにも当てはまりません。で、今日の午後、同僚のリチャードとマリアに意見を聞いてみました。

「プレゼン全般に使えるイディオムだよ。砕けたプレゼンにも、正式なプレゼンにも使える表現だね。」
とリチャード。マリアは、
「私のイメージは、色んな媒体を使うプレゼンね。ただ喋るだけじゃなくって、スライドあり、パンフレットあり、って感じかな。」
「ちょっと小ばかにしたような響きがあると思うんだけど、どうなの?」
と私が尋ねると、リチャードが、
「いや、そんなことはないと思うよ。ただ、話し手が冗談めかしてることは確かだな。」

なるほどね。総合すると、こんなところでしょうか。

“So we did a dog and pony show.”
「で、ちょっとしたプレゼンをやったってわけさ。」

違うかな?

2010年11月29日月曜日

Fall into somone’s lap. 労せずして手に入れる。

カマリロ支社のマイクというお偉方から、プロポーザル作成の手助けを頼まれました。今朝電話で彼と話しながら、
「我が社にとっては、初めてのクライアントなんですか?」
と尋ねると、
「ちょっと背景を説明しておいた方がいいね。」
と、プロポーザルに取り掛かることになった経緯を解説してくれました。

このクライアントのプロジェクトを直接受けたことは今までないのですが、我が社のエース級社員が他社の下請けで仕事した際、先方から大変気に入られたらしいのです。で、最近になって大きな仕事が発生したので、「プロポーザルを出してみないか」と声がかかったのだと。新しいクライアントの場合、大抵そこまで漕ぎつけるのがひと苦労なのですが、今回は非常にラッキーだった訳です。それをマイクはこう表現しました。

The opportunity fell into our laps that way.
そんな風にしてチャンスが転がり込んで来たのさ。

調べてみたところ、このFall into one’s lap というのは、「苦労せずに何かを手に入れる」という意味。ふ~ん、なるほどね。しかし私はここで、 “into” に引っかかりました。「中に」という語感とLap とが繋がらないような気がしたのです。だってラップって「膝」でしょ?と。

あらためて調べてみたところ、ラップというのは腰から膝までの間で作られる水平なスペースのことなのですね。よく考えてみれば、「ラップトップ」という表現もあるくらいだから意味は明らかなんだけど、日本語にぴったりした訳が無いので、なかなかイメージがつかめなかったのです。

「膝頭から腰までの間で形成されるスペース」にチャンスが落っこちて来たので、 Fall into と “into” が使われたわけです。これがもし「膝頭」が相手だったら、 “on” じゃないとおかしいですからね(それじゃ何の話か分かんないけど)。

{追記}
同僚のマリアとリチャードに、「この場合、into じゃなくて onto が正しいと思うんだけど。」と言うと、二人とも激しく同意しました。きっと、もともとは lap の上にお盆とか大皿とかを置いて、その上に転がり込んて来たっていう話だったんじゃないかな、ということで全員落ち着きました。

2010年11月26日金曜日

Buff 〇〇大好き人間

先日、オフィスの観葉植物に水遣りに来ているメアリーが、自分の家族の話をしてくれました。その際、こんなことを言ったのです。

My dad is a photography buff.

バフ?何だそれ。写真バフ?まあ文脈から大体想像はつくのですが、初めて聞く単語なので、さっそく調査。

Buff というのは、バッファローの毛皮のようなベージュ色のこと。俗語で、ファン、マニア、〇〇狂、という意味になるそうです。ウィキペディアによれば、そういう意味で使われ始めたきっかけというのが、ニューヨークの有志の消防隊員が着ていたユニフォームの色がBuffだっということ。彼らが夢中で火に飛び込んで行く様子から、何かを熱狂的に好きな人のことを指すようになったのだそうです。

動詞の場合、靴などを布で磨くという意味になります。さらに調べを進めると、最近じゃこれが、「いいカラダしてる人」のことを指すようにもなってるらしいのです。「今度転校して来た女、 Buff だな。」などと言うんだと。男の場合は、「筋肉のついたカッコイイ身体の奴」となります。更にこれが “in the buff” となると、「裸で」という意味になるそうです。

「さて皆さん、もうこれで “Buff buff buffing in the buff” の意味、分かりますよね?」という問題がBBCのサイトに出てました。

わかります?

Catch someone off guard 不意を衝く

私の直属の上司はリックで、そのボスはクリス、そのボスはエリックで、そのまたボスはジョエルです。先週末、そのジョエルから私のブラックベリーにメールが入ります。
「シンスケ、C支社の社員にプロジェクトマネジメントの基礎トレーニングをやってくれないか?」

支社長だったブライアンが去り、後釜が決まるまでジョエルがこの支社の面倒を見ることになったのです。
「ここの社員達は、今までちゃんとしたトレーニングを受けて来ていないことが分かったんだ。今週中に2時間ほどクラスをやってくれると助かるよ。」
C支社は、砂漠地帯近くの小さな街にあり、ロサンゼルスやサンディエゴなどと違って、公式のトレーニングが開催される機会が稀なのです。

そんな訳で、火曜日に車を二時間走らせ、C支社へ行って来ました。生徒は20人ほど。古参の社員も混ざっています。驚いたことに、大ボスのエリックまで座っています。彼はジョエルに言われて時々C支社の様子を見に来ることになったそうで、たまたまその日来ていたのだとか。エリックは、会議室のスクリーンの前に立って自己紹介した後、私の紹介をしてくれました。
「シンスケはプロジェクトマネジメントのグルで、グレートな教師です。みんなしっかり学んでくれよ。」

私は、その大仰な肩書きに苦笑いしながら彼からバトンを受け取ろうとしたのですが、急に思いついてこう言いました。
「そうだエリック、 Safety Minutes をやってくれませんか?」

セイフティ・ミニッツというのは、安全に関する小話です。こないだこんな危ないことがあった、気をつけよう、などという啓発的な話題を提供するためのもの。会社の規則で、会議やトレーニングの前に必ずやらなければならないことになっています。参加者の誰が話してもいいのですが、大抵司会者が自分でやるか、誰かに振るかしています。私が進行する場合、必ず誰かに振って来ました。今回たまたま、大ボスのエリックに投げちゃったのです。エリックは一瞬、当惑の表情を浮かべてこう言いました。

“Oh, you caught me off guard.”

直訳すれば、「防御してないところをつかまった。」でしょうか。オフガードですから、ボクシングで言えば腕をだらりと下げた状態ですね。意味は、「不意を衝かれた」とか「油断してるところをやられた」。エリックは、その一秒後に涼しい顔ですらすらとセイフティ・ミニッツを始め、さすが百戦錬磨のツワモノだ、と私を感心させてくれました。

今後、まさか自分が指名されると思っていなかったところでスピーチを頼まれた時、このフレーズを使ってわずかばかりの時間稼ぎをしようと思いました。

2010年11月25日木曜日

Etch エッチする?

先週、地元の図書館で本を借りました。カウンターには、まるでパーティー用の仮装みたいな白い顎ヒゲを蓄えた白人のお爺さんが座っていて、よく人の借りる本を見ながら、
「うん、これはいい本だね。この作者の本で〇〇というのもあるけど、もう読んだかい?」
などと気さくに話しかけて来ます。長い列が出来ていても全く気にせずお喋りしているので、ちょっと苛立つこともあります。

この日も、私の前に並んでいた女性と楽しげに、延々と話していました。ようやく私の番が来て、爺さんはバーコードをスキャンした後、明るくこう言いました。
「OK、あんたの本の返却日は、ちょうど真珠湾記念日(Pearl Harbor Day)だよ。」
そしてチラッと私の顔を見上げ、私が日本人であることに気付いたのか、ハッとしたような表情になって黙りました。サンキューと言って立ち去ったのですが、ちょっと考え込んでしまいました。

うちの会社には、Floating Holiday という特別有給休暇制度があります。これは多様な国籍や宗教を持つ人のためにあるような制度で、例えば「中国暦の元日」とか「メキシコ独立記念日」とかの中から一日選んで有給で休めるわけ。11月初旬に人事から一斉メールが届きました。
「今年の Floating Holiday をまだ取っていない人は、急いで下さい。年末までに消化しないと、権利が失効しますよ。」
残っているチョイスを見たら、11月11日の「復員軍人の日」それに12月7日の「真珠湾記念日」しかありませんでした。何となく後者を選ぶ気になれず、前者を採りました。日本人は、原爆記念日に会社を休むって無いよなあ…。

“I guess that the Pearl Harbor Attack is deeply etched in people’s minds.”
「あらためて思うんだけど、真珠湾攻撃ってのはアメリカ人の心に深く刻み込まれてるんだね。」
同僚ラリーと食事に行った際、こう話しました。図書館での一件も付け足すと、
「うん、そうだね。でもさ、その人がどうかは知らないけど、今のアメリカ人は真珠湾記念日を一般の祝日と同列に意識してると思うよ。日本人を責める気持ちなんて無いと思うな。」
と彼が答えました。実は私、この時とっさに Etch (刻み込む)という言葉を使ったのですが、正しい使い方なのかどうか不安でした。ラリーに確認したら正解で、ホッとしました。

Etch というのは銅版などに絵を刻む「エッチング」で知られていますが、「刻む」という意味です。Be etched in someone’s mind. で「心に刻み込まれる」となるわけですね。初めて使ったこの表現がしっかりと状況に即していたので、とても強く記憶に残りました。

一度「エッチする」と、忘れられないものですね。

2010年11月22日月曜日

Credit is given where it’s due. 称賛は功労者に与えられるべし。

先日の朝、ロングビーチ支社のサラからメールが届きました。
「ブライアンが、彼のプロジェクトの財務状況を分析してレポートを作ってくれって言ってるの。分析項目の中に、私には理解出来ないことがいくつもあるのよ。助けてくれる?午後の会議に間に合うよう、どうしてもお昼までに必要なの。」
時計を見ると午前10時。よっしゃ任せろ!こういうの、燃えるんだよな。

超特急で仕上げて11時過ぎに送信。
「ブライアン、喜んでたわ。どうも有難う。シンスケのこと、ちゃんと言っておいたから。」
「そういうのは、自分がやったことにしとけばいいんだよ。」
するとサラが、こう返信してきました。

Credit is given where it’s due.
称賛は功労者に与えられるべし。

この「クレジット」ですが、実は長年の頭痛の種なんです。映画の最後に製作関係者の名前のリストを流す習慣がありますが、英語でこれを “Closing Credits” とか “End Credits” と呼びます。どうしてここでクレジットって言葉を使うのかな、とずっと疑問に思ってました。だって、クレジットといえばクレジット・カードでしょ。「信用」って意味で。繋がりが全然分からないんです。そもそもクレジットは「信じる」という意味のラテン語 Credere から来ているそうなのですが、エンド・クレジットで製作者を紹介するのは、「功績を認める、称える」です。「信じる」と「称える」の間には、かなりの隔たりがあります。同僚のリチャードにそのへんを聞いてみたんですが、
「そうかなあ。僕には何の不思議もないけどなあ。」
と、私の疑問自体が理解出来ない様子。

色々調べたんですが

Give someone credit for something.
誰かに何かについてのクレジットを与える。

の意味が、

to believe that someone is good at something or has a particular good quality
誰かが何かに長けている、または特に優れた素質を持っていると信じること。

と説明されているものがあり、これで何とか少し落ち着きました。「信用できる」から「偉い」、「偉い」から「褒める」。そういうことでしょう。この三段論法、ちょっと強引過ぎる気がするんだけど…。

引き続き調査を進めます。

2010年11月21日日曜日

アメリカで武者修行 第30話 次の一手でとどめを刺すの。

少し体重を増やした上機嫌なロバート・デニーロ、といった風貌のエド。人柄の良さが、その笑顔から滲み出しています。彼のところで働くというのが具体的にどんな仕事をすることなのか、全く想像がつきません。しかしこちらは失職寸前の身、この際何だってやります。その意気込みを激しく伝えたところ、
「それは良かった。来週ゆっくり話せるかな。」
ちょうど一週間後の朝一番、彼のオフィスを訪ねることになりました。

エドが去った後、さっそくケヴィンに電話で報告します。彼はすっかり現場事務所から足を洗い、今ではサンディエゴ支社に自分の部屋を与えられて、バリバリ仕事しています。
「やったな。シンスケがエドに雇ってもらえば、俺達また同じオフィスで働けるぞ!」
電話の声が弾んでいます。

そのケヴィンから、エドとの面会の前日に電話がありました。
「さっきエドと話したよ。彼は君との面接で、プロジェクトマネジメントに関する知識を試すつもりらしいぜ。ちゃんと予習しておいた方がいいな。」
「えっ、面接?」
私はてっきり、自分が今までやって来た仕事のことなどを聞かれるのだと思っていました。「ゆっくり話そう」というのは、適性を見るための面接のことだったのです。冷静に考えれば当たり前の話です。危ない危ない。この期に及んで、自分は一体何をやってたんだ?折りも折り、PMP受験のためにと注文しておいたプロジェクトマネジメントの参考書が届いたので、その夜、超速読を開始。一晩かけて基礎知識を頭に詰め込み、エドとの面接に臨みました。

「オフィスビルを建てるとして、君はどうやってスケジュールを作る?」
「アーンド・バリューとは何?」
「クリティカル・パスとは何か説明してくれ。」

一夜漬けが功を奏し、すべての質問に何とか答えることが出来ました。ケヴィンからのインサイダー情報がなかったら、悲惨な結果に終わっていたことでしょう。またしても彼に、すんでのところで救われたのでした。
「君とはうまくやっていけそうだ。さっそくボスに話してみるよ。」
と、笑顔で立ち上がって握手を求めるエド。え?これってOKってこと?失業を免れたのかな?よく分からないまま、ひとまずその場を去りました。

一夜明けて木曜の朝、出勤早々リンダが私のところへやって来て、早口でこう告げました。
「マイクが月曜にイラクへ発つことになっちゃったの。これからサクラメントへ行って来るわ。彼が出発する前にやらなきゃいけないことが、山ほどあるから。」
そして、あっという間に姿を消したのでした。クレーム作成が佳境に入っていただけに、この行動は意外でした。イラクへ行くのはマイクなのに、なんでリンダまで仕事を抜けなきゃならないんだ?と。ところが、空港まで彼女を送ったティルゾから、翌月曜の朝、こんな話を聞き仰天。
「リンダとマイクは、土曜に結婚したんだよ。」
「え?ちょっと待って。どういうこと?」

そもそもマイクとリンダは夫婦でも何でもなく、最近別れたりくっついたりしてたのは、「恋人」という間柄でのことだったのです。去年の暮れにプロポーズを受けていたリンダは、マイクから水曜の夜、「月曜の出発が決まった」という電話を受けてようやく結婚を決意。翌朝大慌てで牧師の手配をし、航空券を電話注文。そしてティルゾの運転でサンディエゴ空港に向かう途中、ショッピングモールに寄ってティファニーの結婚指輪を一対購入したのだそうです。
「空港へ行くまでの限られた時間に、結婚指輪を選んで買っちゃったんだよ。30分くらいだったかな。大した決断力だよね。まあ僕も一応指輪選び、手伝ったけどさ。」
と笑うティルゾ。

結婚指輪を携えサクラメントに到着したリンダは、翌日の金曜にダウンタウンで花嫁衣裳を買い、土曜日にマイクとタホ湖まで走り牧師と落ち合って、湖畔で式を挙げたそうなのです。そして月曜の朝、イラクへ旅立つマイクを空港で見送った後、午後一番で職場に戻って来ました。
「おめでとうございます。」
と言いかけた私を遮り、
「さあ、クレームを仕上げるわよ!」
と真顔でハッパをかけてきた時には、やはりこの人はタダモノじゃないな、と感心しました。

そして遂に、70ページを超えるクレーム文書が完成しました。原契約額とほぼ同額、日本円にして数億の追加請求。これを元請け会社の役員全員に宛て、フェデックスで送りつけたのです。ティルゾとリンダとで、会議室にこもってフェデックスの箱にひとつひとつ書類の束を詰めながら、
「ジャンの奴、きっと怒り狂うだろうな。彼の顔は確実に潰れますね。」
と私が言うと、
「喜ぶのはまだ早いわ。これで終わりじゃないわよ。敵は必ず反撃してくるから、すぐに二の矢の準備を始めましょう。」
とリンダ。

ところがその翌日、衝撃的なニュースがオフィスを駆け巡りました。ジャンが更迭されたというのです。私達が文書をこっそり箱詰めしていたちょうどその頃、宣告が下っていたことになります。ティルゾの入手した内部情報によれば、平社員に降格され、どこか砂漠の真ん中にある事務所で資料整理の仕事をすることになったとか。リンダが静かに言いました。
「この手で引導を渡せなかったのは残念だけど、このクレーム文書は彼の刑期引き延ばしに、きっと貢献してくれるでしょう。」

さて翌週、エドに電話して様子をうかがいました。不安を抱えて一週間待った上でのこと。
「まだ結論は出てないけど、大丈夫だと思うよ。三月からここで働いてもらうつもりだ。ただ、こういうのは手続きが必要なんだ。結論はもうちょっと待ってくれないか?」
との返事。新しいポジションに人を雇う場合、一般広告を出して募集をかける決まりになっているというのです。その上で私を超える候補者が現れなければ、最終決定となるわけ。帰宅して妻に話すと、
「でも、外部から飛びきりの実力者が応募して来ちゃったらどうなるの?」
と心配そうです。
「その人とも面接してから決めるんだろうね。」
「じゃあ、失業する可能性はまだ残ってるってことね。」
「残念ながらそういうことだな。」
妻の不安は当然です。溺れる寸前に投げ込まれた一本のロープ。家族三人、立ち泳ぎしながらこれにつかまって、船上のエドがぐいと引っ張り上げてくれるのを、ただただ祈るだけの状況なのですから。

一方、我々が渾身のクレームレターを送りつけた一週間後、元請けのORGからようやく返事が届きました。差出人は、元請会社の重役です。
「何かの間違いでは?おっしゃっている意味が分かりません。どれもこれも、身に覚えのない話でございます。お宅の方で、もう一度よくお調べになってはいかがですか?」
と、恐ろしくすっとぼけた内容。
「よくもここまで誠意の無い手紙を公式に送って来れますね。この神経の太さには呆れますよ。」
と憤る私。しかしリンダは冷静です。
「こうやってしらばっくれるのは、すぐに反論出来ないっていう何よりの証拠よ。私達がクレーム文書を用意してることを察知して、すぐにトカゲの尻尾を切ったんでしょうね。そうして暫く知らぬ存ぜぬで通し、反撃材料を探すための時間稼ぎをしているのよ。さあ、クレームレター第二弾を仕上げましょう。次の一手でとどめを刺すの。仕事にかかるわよ。」

2010年11月19日金曜日

Straw that broke the camel’s back ついに堪忍袋の緒が切れた

昨日の朝、同僚のジムからこんなニュースを聞きました。
「C支社が年明けに閉鎖され、オンタリオという街に引越しすることになったそうだよ。支社長のブライアンは月曜に解雇されたんだって。」

ブライアンとは過去7年以上割りと仲良くしていただけに、ショックでした。
「何でクビになったの?」
「さあね。上と色々やりあったような話は聞いたけど…。」

ジムの話の裏を取るため、C支社に勤務している古参社員のボブに電話してみました。
「ああ、その話は本当だよ。」
「どうしてブライアンは辞めなきゃいけなかったの?」
「これまで何度も上層部とぶつかって来た挙句に、今回、突然の引越しの話だろ。プツンと来ちゃったんだよ。我慢の限界だったんだろうな、ブライアンも。」

この時ボブが使ったのが、この表現。

It was the last straw that broke the camel’s back.

瞬間的に頭に浮かんだのは、「ラクダの背中のコブを割ってストローで中の水を飲む」ビジュアル・イメージでした。いやいや、そんなわけは無い。ストローというのは麦わらのことに違いない。直訳すると、「最後のわら一本で、ラクダの背骨が折れちゃったんだよ。」つまり、輸送手段であるラクダに荷を積み過ぎ、最後に載せた一本の麦わらで、とうとう動けなくなった、という状況ですね。「我慢の限度を超えた」とか「堪忍袋の緒が切れた」という意味です。これ、前に何度か聞いたことがある言い回しなんだけど、英語の慣用句にラクダが登場するのはちょっと違和感があります。英語圏に、かつてラクダで荷物運びしてた国ってあるのかな?

そう不審に思って語源を調べてみました。またしても諸説紛々。一番多く見かけたのは、1848年に書かれたチャールズ・ディケンズの「ドンビー父子」が元だという説明

でも、この本バカ売れしたって話、聞いたことない。ミリオンセラーならまだしも、これが語源だとはとても信じられません。

ウィキペディアには、「アラブのことわざから来ている」とあり、そうだろうそうだろう、と納得しかけたのですが、「要出典」と添えてあります。ダメだ。ここで語源探求を断念。いつかアラブの友達が出来た時、聞いてみます。

2010年11月15日月曜日

Knock your socks off. 靴下脱がしちゃうわよ!(?)

今朝、IT担当のエレンから、経理のベス経由でこんなリンク付きメールが届きました。
「このビデオ見て。すごいわよ!」

そしてこう続きます。

“Take your socks off before watching or they'll be knocked off if you don't !!!!”
「見る前に靴下脱いでね。さもないと脱がされちゃうわよ!」

はぁ?エレンったら、一体何の話してんだ?さっぱり訳が分かりません。ちょっと調べてみたところ、Knock someone’s socks off で、「あまりの素晴らしさに仰天させる」という意味であることが分かりました。エレンは、これを少しいじって文章を面白くしたのです。

リンクをクリックしてビデオを見てみると、若い女の子たちが大勢で縄跳びしてます。それが、そんじょそこらの縄跳びじゃない。まるでオリンピックのシンクロ団体競技を見ているようで、観客の熱狂ぶりも伝わって、思わず拍手喝采。

興奮さめやらぬ中、この “Knock someone’s socks off.” という言い回しについて調べてみました。語源を探すのが一苦労で、諸説見つかったのですが、中にはこんなのもありました。

「昔のポルノ男優は羞恥心の表れか、靴下を履いて演技していた。しかし内容が素晴らしい場合、彼らもつい本気になって靴下を脱いだ。」

な~に言ってんだ、そんな無茶苦茶な説明があるかよ、と呆れつつ他を探すこと数時間。遂に発見したのがこれ

「19世紀半ば、靴下は貴重品だった。街で殴りあいの喧嘩があった場合、負けた者は気絶している間に靴ばかりか靴下までむしり取られた。これが、ボクシングの試合で対戦者を圧倒的にやっつける、という意味に変わり、更にはひどく感動(感心)させる、と変化して行った。」

これでしょ、これ!そもそも “Knock Off” というのは「叩き落とす」とか「払い落とす」、という意味なので、靴下を「脱がしちゃう」なんていう甘っちょろいニュアンスじゃないんだよな。

とってもすっきりしました。

2010年11月13日土曜日

アメリカって国は…。

知り合いからキャンプに誘われたので、寝袋を買いにウォルマート(巨大ディスカウントストア)に行って来ました。アウトドア・セクションの釣り道具売り場と背中合わせに、こんな物が無造作に並べられていました。ひえ~っ。

2010年11月12日金曜日

Hot Button デリケートな(テーマ)

はす向かいの部屋で仕事してる弁護士の同僚ラリーに、一昨日こんな質問をしました。
「クライアントとの契約書によくIndemnification (賠償)という項目があるんだけど、それと Professional Liability Insurance (専門職業賠償責任保険)との関係が良く分からないんだよね。教えてくれる?」

重大な設計ミスによって構造物が崩壊してしまった、などという場合に設計者である我々がその損害を賠償し、クライントに迷惑は一切おかけしません、というのがIndemnification (賠償)条項です。ここまでは分かる。でも、そんな条項に合意させといて、何でまたわざわざ「保険もかけておきなさい」と要求するわけ?というのが私の疑問でした。

「車の保険と一緒さ。人をはねた場合の賠償額は加害者である私が払います、と言うのはやさしいけど、現実にはそんな大金を支払う能力のある人なんてまずいないだろ。だから政府は、運転手にきちんと保険をかけさせるんだ。僕らの仕事だって同じことだよ。」

なるほど、納得です。ラリーが続けます。
「Indemnification (賠償)は、クライアント側がこっそり過剰な要求を付け足すことが多い条項で、要注意なんだ。たまに、損害の原因が相手にないケースでも賠償要求出来るような文章が紛れ込ませてあったりね。Indemnification は、契約書の中でも一番神経を尖らせなければならないデリケートな条項のひとつだよ。」

この時ラリーが使った言い回しがこれ。

The indemnification is one of the hot-button clauses.

この “Hot Button” ですが、もともとセールスマンが商品を売る際、「客に飛びつかせるために押さえておくべきポイント」をこう呼んでいたようです。それが1984年の大統領選挙で「激論に発展する争点」という意味で使われたことから、以後こちらが主流になったようです。「死刑制度」や「銃規制」などがその良い例でしょう。「熱いボタン」を押した途端、熱い議論が始まる感じですね。

2010年11月11日木曜日

アメリカで武者修行 第29話 これでジャンを叩き潰せるわよ!

一月も終盤、ジョージから厳しい宣告が下りました。
「君の食い扶持は二月一杯で底をつく。それまでに次の仕事を見つけた方がいい。」
いよいよ俵に足がかかりました。過去数ヶ月の間に履歴書を送りつけてあった複数の支社からは、
「次のプロジェクトが取れれば、契約担当の人間が必要になる。是非来て欲しい。」
と声がかかっていたのですが、結局どのプロジェクトも受注に失敗し、すっかりあてが外れました。「失職」という名の滝壺に向かって激流を下りながら、何とかどこかの岸に筏をつけようともがく毎日。皮肉なことに、ちょうどこの頃から急激に忙しさが増します。かねてからの懸案だった元請け(ORG)に対する損害賠償請求に向け、いよいよ本格的に行動を開始したのです。これまでも小額のクレームは度々起こして来ましたが、今回のはメガトン級。日本円にして数億の規模になる予定で、事実上の宣戦布告です。ディレクターのクラウディオからは、
「クレーム文書が完成するまでは、同じオフィス内で働くORGの面々に勘付かれぬように。」
との指示が出ました。慎重に、しかし激しい怒りをこめて、日夜文書作成に精を出しました。これは、いわば復讐戦です。私が職探しに苦しんでいるのも、元はと言えばORGの理不尽な下請けイジメが原因なのですから。

そもそも我々の契約書には、州政府が自ら作成した基本設計をベースに詳細設計せよ、と明確に書かれています。ところが、二年前の6月にORG経由で手渡された基本設計は、欠陥だらけの未完成品でした。例えば合流部のひとつ。カーブしながら合流する二つの道路がそれぞれの勾配を維持したまま交わるため、その接合部が尾根を形成してしまい、流入する車が跳ね上がってしまうデザインになっていました。プロジェクト初期から参加しているメンバー達に言わせれば、「屑同然」の基本設計だったそうです。ところが何を思ったかORGは、
「この基本設計を手直しして早急に州の承認を得るんだ!」
と設計チームの尻を叩き始めたのです。基本設計の欠陥は、明らかに作成者である州政府の落ち度です。本来ならこの時点でブレーキをかけて仕切り直すべきところですが、州政府とまともに事を構えればスケジュールが大幅に遅れることは確実。それよりは早く問題を処理し先に進んだ方が得策、というのがORGの腹だったのでしょう。もちろん我々も数週間でケリをつけるつもりだったし、報酬もきちんと支払われるという前提で走り始めました。しかし、それが地獄の入り口でした。

設計施工一体型プロジェクトの最大の特徴は、施工者が設計を変えられるという点です。極端な場合、施工者の圧力によってまさかと思うほどチープな代物を設計させることも可能なのです。特に一定額で請負契約をした場合、施工者は出来る限り安く仕上げて利益を最大化しようとします。しかし公共事業の場合、設計は各種の厳しい基準を満たさなければいけないので、安く上げるにも限度があります。自然とどこか中庸なところで落ち着くだろう、と誰もが考えるところですが、それは施工者が常識的なマネジメントをした場合の話です。

ORGのトップに座るジャンは、基準を無視してでも利益を上げようとすることで悪名高く、州政府と度々衝突してきました。自ら出席した住民説明会で承認された植栽計画も、後で計算したら膨大なコストがかかることが分かったため、
「植栽はやめて種子吹付けにする。設計をやり直せ。」
と真顔で指示して来ました。これは純然たる契約違反です。州政府の再三の警告にも耳を貸さず、安全基準や環境基準を無視して仕事を続けた結果、現場作業を二週間差し止められたこともありました。

二年前の9月、オリジナルの基本設計にあった欠陥を全て修復した我々の図面を受け取ったORGは、
「この道路形状だと工事費が高くなる。」
と、即やり直しを命じました。設計基準に沿うよう改善したものを逆方向に手直しするのですから、当然無理が生じます。
「ご指示に従って修正したが、安全性に問題があり、設計者としてはお勧めできません。」
と但し書き付きで提出しますが、ORGはこれを無視して州に届けます。予想通り、州は
「これじゃ事故だらけの高速道路になってしまう。何を考えてるんだ?」
と突き返します。するとORGは、
「どうなってるんだ。州に承認されるような設計をするのはお前らの務めだろう。」
と我々を怒鳴りつける。さらに基準を満たした図面を再提出すると、
「工事費がかかりすぎる!」
とまたつき返す。こんな繰り返しの末、基本設計が承認されたのは、なんとプロジェクト開始から一年後。設計費用は成果品ベースで支払われるため、我々JVは実に一年間もただ働きをさせられたのです。報酬要求を繰り返す我々に対し、ジャンは、
「お前らがボランティアでやったことだ。金なら払えん。」
と知らぬ顔を続けます。そればかりか、将来訴訟になった場合に備えてか、
「質の悪い設計ばかり提出され、大変迷惑している。」
という手紙を何通も送りつけてきました。挙句の果てに、数ヵ月後にスタートするはずだった有料道路区間の設計契約を一方的に破棄して我々を足蹴にし、自分の子飼いの設計会社に仕事を回したのです。

ここまで愚弄されれば、どんな善人だって堪忍袋の緒が切れようというもの。とりわけ、我々設計JVの参謀であるリンダの憤りは凄まじく、この件に触れた途端、毎回わなわなと震え出すほどでした。しかし、契約書に「正当な理由がなくてもいつでも破棄できる」という項目がある以上、我々の立場は圧倒的に不利なのです。元請けへの報復なんて、どんなにあがいても実現不可能な話に思えました。ところが1月最終週のある日、サクラメントの法律図書館に一週間こもって調査に没頭していたリンダが、
「これでジャンを叩き潰せるわよ!」
と顔を輝かせて戻って来ました。賠償要求の根拠に使える、絶好の判例を発見したとのこと。さっそく彼女がクレーム文案を練り、私は膨大なデータを集めて裏付け資料の作成にとりかかりました。

この時役に立ったのは、リンダが就任一ヶ月後に導入した「ドキュメント・コントロール・システム」です。それまでの文書管理は、紙ファイルに挟んだ書類をダンボール箱に保管してラベルを貼る、というのが一般的な手法でした。リンダはマイクを説得し、プロジェクトに関連する全ての文書をスキャンしてPDF化し保存するシステムを作り上げました。お陰で、裏づけ資料は驚くべきスピードで仕上がって行きました。もっとも、導入後しばらくはチームメンバーからの抵抗もありました。
「本当に重要な書類だけスキャンすればいいんじゃないの?」
と面倒臭がる者には、リンダが鷹のように舞い降りて来て、
「全ての文書よ。私が全てと言ったら、本当にスベテなのよ!」
とスゴみます。そのうち彼女に刃向かう者は消え、逆に文書検索の時間が劇的に短縮されたことへの感謝を述べる人が増えました。

さて、リンダと私の仕事が着々と進み、いよいよクレーム額の積み上げ作業を開始する手はずが整いました。オークランド支社から週3日やって来てプロジェクトコントロールを担当しているアーロンがそれに当たるはずだったのですが、彼が会社を辞めて台湾の実家に帰るというニュースが飛び込んで来ました。

アーロンは10歳ほど年下のエンジニアで、初めて会った頃、何故か常に上から見下ろすような言葉遣いで私の質問に答えていました。
「オーケー?分かったかい?分からないことがあったらちゃんと質問するんだよ。」
若作りの私は、こんな風に扱われるのは慣れっこなので、そのままやり過ごしていました。9月の私の誕生日、シェインが近くの中華料理屋で昼食会を開いてくれた際、私が40歳になったことを話すと、出席者一同「嘘だろ~!」どよめきます。その時、隣に座っていたアーロンが、誰の目にも明らかな程うろたえているのに気付きました。帰りの車中、
「ごめんね。僕、シンスケのこと、ずっと年下だと思ってた。」
と謝り続けるアーロン。これは新鮮でした。台湾人って、日本人と同じように年齢で上下関係が出来るのかな。僕らはアメリカにいるんだから関係ないのに、と可笑しくなりました。

そんな彼から私はプロジェクト・コントロールのイロハを学び、時には彼の作るレポートのためにデータを提供したりして、コンビといっても良いほど近い関係になっていたのです。
「アーロン、辞めちゃうって本当?」
「うん、そうなんだ。台湾へ帰るんだ。」
理由を尋ねても黙って微笑むだけなので、それ以上の追求は控えました。
「きっと燃え尽きちゃったんだよ。」
ケヴィンが後でコメントしていました。
「二年間も毎週飛行機で出張してりゃ、疲れて当然だ。この職種の宿命だよ。」

大事な時期に辞められ、お偉方はお冠でしたが、私にとっては望外のチャンス到来となりました。アーロンが、
「後任にはシンスケを推薦しておいたよ。」
と言ってくれたからです。私にとっては、次の仕事が決まるまでの絶好の繋ぎになります。この仕事で多少なりとも実績を積んでおけば、この先の就職活動のための強力な武器になるかもしれません。ジョージやクラウディオだって、外から人を連れて来るより内部の人間を使う方が効率がいいと思うに違いない、というのが一縷の望みでした。ところが、さっそく翌日ジョージに申し出てみると、
「いや、これは大事なクレームだから専門家じゃないと駄目だ。後釜はもう決めてある。」と軽く一蹴。

これで万策尽きました。俄然、失職が現実味を帯びて来ます。

二月も中盤になり、アーロンが最後の引継ぎにやって来ました。彼にジョージの決断を告げると、
「うん、聞いたよ。残念だったね。」
とため息をついてから、こう付け足しました。
「カリフォルニア中の僕の知り合いにシンスケを売り込んでおいたよ。さっそくだけど、サンディエゴ支社のエドがシンスケに興味あるって言ってたよ。会ってみたら?」

その日の午後のことでした。背後から名を呼ばれて振り向くと、私のキュービクルの前に見知らぬ男が立っていました。
「プロジェクトコントロールに興味があるんだって?アーロンから聞いたよ。うちで働く気あるかい?」
これがエドでした。

2010年11月9日火曜日

Enough! いい加減にしなさい!

ミシガンに住む義父が用事で一週間ほど日本へ行くというので、一昨日9歳になった息子も一緒に連れて行ってもらうことになりました。念願の、「日本の小学校に体験入学」まで実現出来る運びとなり、彼は大興奮です。
「日本の学校ではどんなことをしたい?」
という問いに対して返ってきた答えが、
「悪ガキ集めてチームを作って、いたずらしたい!」
おいおい、そんなことして問題になったら二度と受け入れてもらえないぞ!

今日の午後、オフィスの観葉植物の水遣りに来ている外部業者のメアリーにその話をしたところ、
「それって冗談じゃなく、ほんとにきちんと注意してやった方がいいかも。」
と心配顔になり、こんなエピソードを語り始めました。

彼女の女友達が、今年に入って英語教師の職を得ました。場所はエジプト。8月から2年契約で、小学3年生のための外国語クラスを受け持つことになったのです。こっちの家を売ったり色々雑事を片付けるため、ご主人は暫くこちらに残り、来月エジプトで合流する予定でした。そんな彼女から、先週電話が入りました。
「元気?そっちはどんな様子?」とメアリー。
「うん、アメリカに戻ってるの。」
「え?2年間エジプトにいるんじゃなかったの?」
「それがね、…。」

彼女のクラスに一人悪ガキがいて、毎日のように彼女を追い掛け回し、背中に教科書を投げつけて来るのだそうです。何度注意しても言うことを聞かない。3ヶ月間我慢した挙句、ある日くるっと振り向いてその男の子の両肩をガシッとつかまえ、

“Enough!”
いい加減にしなさい!

と睨み付けました。その場はそれでおさまってホッとしていたら、夜になって学校当局から連絡が来ます。
「急いで荷物をまとめて空港に向かって下さい。」
「はあ?」

帰宅した悪ガキが両親にその日の事件を報告したところ、彼らは
「その教師を殺す!」
と逆上したそうです。たとえそれが小さな子供であれ、女性が男性の身体に触ることは宗教的にタブーなのだそうで、その禁を犯したからには死をもって償わなければならない、と。その動きを察知した学校側は、両親が彼女を殺しに行く前に何とか逃がそうと画策。その甲斐あって、どうにか無事に帰って来たとか。

さすがに日本でこんなことは起こり得ないけど、確かに文化の違いについては、出発前にきちんと息子に言い聞かせておく必要がありそうです。「授業中は立ち歩かない」なんて基本的なことから(こっちじゃその辺のルールがかなり緩いので)。

ところでこの “Enough” ですが、同タイトルのジェニファー・ロペス主演映画が封切られた時、邦題はどうなるのかな、と楽しみにしていました。こういう、単語ひとつのタイトルって和訳が難しいんだよな。「充分よ!」じゃ変だし、「いい加減にして!」じゃちょっと軽い。で、さっき調べたら、何と「イナフ」とカタカナ表記になってました。

逃げやがったな…。

2010年11月8日月曜日

Play by ear 臨機応変に対応する

職場にはほぼ毎日弁当を持って行ってますが、金曜だけは外食です。というのも、職場の仲間と誘い合って食べに行くことが多いから。先週も、同僚マリアと11時を回った頃、「今日はどうする?」という話になりました。
「エドが行こうって言ってるんだけど、彼、今、電話会議中なのよ。」
確かに私の隣にある彼のオフィスのドアは閉まっており、中から彼の話し声が聞こえます。
「12時までに終わらない可能性もあるって言ってたから、もしかしたら出発が遅くなるかも。」
とマリア。
「う~ん。それは困ったな。僕は1時から電話会議が入ってるんだよね。あまり出発が遅くなるようだと、単独で行かざるを得ないな。」
その時マリアがこう言いました。

“Let’s play by ear.”
状況に応じて決めましょう。

これ、何度か聞いたことのある表現だけど、ぴんと来なくて今まで使ったことがありません。文字通りに解釈すると、「楽譜を見ずに演奏しよう」です。目ではなく、耳で音を拾って楽器を演奏しようということ。でも問題は、「何故音楽の話題じゃないのにこの表現を使うのか」です。

で、先ほど調べました。これは、「楽譜を見ずに演奏する」が「楽譜なしで何でも弾ける」に発展し、さらに「計画せずとも状況に応じて行動できる」へと意味を広げたためのようです。これでやっと腑に落ちました。

2010年11月5日金曜日

Derogatory 相手を見下した、中傷する

ここ最近、久しぶりにAmerican Prometheus というCD本を聴きながらドライブしてます。これは、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマーの伝記です。後半は非常に暗い展開になっており、中盤の原爆開発エピソードが寧ろ明るく感じられるほど。FBIにアカ(共産主義者)じゃないかと睨まれ、しまいには「原爆情報をソ連に流したのでは」と、あらぬ嫌疑をかけられます。

ここでFBI長官フーバーは、違法な盗聴などによってオッペンハイマーの周囲を洗います。そして過去の浮気の詳細も含めたレポートを、政府高官に流すのです。この時何度も使われる言葉に、

Derogatory Information
名誉毀損にあたる情報

というのがあります。フーバーはオッペンハイマーを貶めるため、根も葉もないエピソードまででっち上げ、以後この天才の名声は、坂道を転がるように悪化の一途を辿ります。Derogatory とは、Derogate (名声を落とす)という動詞から派生しているのですが、英語学習者にとってやっかいなのは、「デラガトリー」と発音しないこと。カタカナにすると、「ドゥラガトウリィ」となります。

ここでふと、8年前のケヴィンとの会話を思い出しました。彼は当時この単語が気に入っていたらしく、随分多用していました。元請け会社の面々の態度について苛立ちをぶちまける時は、特に頻発してました。たとえば、

Did you notice their derogatory expression?
あいつらの、人を見下したような顔つき、気付いたか?

私は彼が何と言ってるのかずっと分からなかったのですが、表情や声の調子から、メッセージは理解しているつもりでした。しかしある日、思い切ってこう質問したのです。
「ねえ、ドゥラガトウリィって何のこと?どういう綴り?」
言っていることが分からないままずっと黙っていたことを知りムッとしたのか、彼は
「聞こえた通りの綴りだよ。」
とぶっきら棒に答えました。それが分からないから聞いてるんだろうが!「どぅらがとうりぃ」をどう綴れっていうんだよ!英語学習者を見下した態度に、こっちがカチンと来ましたね。それこそがDeragatory じゃないか、と突っ込めば良かった、と後になって気がつき、悔しい思いをしたのを憶えています。

2010年11月4日木曜日

He’s gonna flip. きっとキレるよ。

昨日はロングビーチ支社で、あるプロジェクトのスケジュールを更新する仕事をして来ました。支社長のトラヴィスが、サーファー社員のマットを私にあてがい、今週中に二人で仕上げてくれと依頼しました。この男、海で鍛えた肉体と甘いマスク、少しウエーブのかかった短い金髪で、まるでハリウッド映画の二枚目俳優みたいな若者です。その上、日本人顔負けの謙虚さまで備えていて、娘の彼氏にしたくなるくらい良く出来た男なのです(娘いないけど)。

その彼と打ち合わせしていた時、二人とも決められないような悩ましい事案にぶつかったので、私が冗談で、
「マット、君が決めてくれよ。僕は技術的内容よく分かんないからさ。」
と言うと、
「そんなの無理だよ。勝手に決めてそれが間違ってたら…。」
と当惑し、

“Travis is gonna flip!”

と続けました。トラヴィスがフリップする???何だそりゃ。フリップって、裏返すってことだよな。意味を尋ねたのですが、ただ「トラヴィスがアンハッピーになる」と繰り返すだけ。僕は「何でフリップなのか」が知りたいのに…。

今日、オレンジ支社に行ったので、ここのところすっかり私の個人教師におさまっているスティーブンに尋ねたところ、
「すごく怒るってことだよ。Flip Out とも言うね。」
「何でフリップなのかな。だって裏返るのと怒るのって、一対一で繋がってるように思えないよ。」
「う~ん、それは僕にも分からないな。」
そこへ、すぐ横のオフィスでこの会話を聞いていたグレンという中堅社員が立ち上がってこちらへやって来ました。
「俺の聞いた話じゃ、 “Flip out the lid” という言い回しが語源だね。お湯が沸騰して鍋ややかんの蓋が吹っ飛ぶ、って意味さ。」

これでスッキリしました。新しく覚えた表現って、こうやって納得しないと使う勇気が湧かないんだよな。

2010年11月2日火曜日

The clock has not started ticking aloud yet. まだ本格的に始まってはいない。

会社組織に属しているとはいえ、私の職の安定性には何の保証もありません。コンスタントに結果を出し続けるだけでは不十分で、それを上手に売り込んでいかないと、気がついた時には日照り状態、そして突然失職。そういう運命が待っているのです。

重要なのは、「忙しい時こそ営業努力を惜しまない」こと。仕事に追われている時は「少し負荷を減らしたい」という心理が働くため、顧客開拓の意欲が鈍ります。で、気がつくと大きなプロジェクトが複数同時に終焉を迎え、閑古鳥が鳴き始める。売り込みを始めてから実際にプロジェクトが開始するまでは大抵数ヶ月かかるため、焦って動いてもすぐには忙しくならないのです。

実は今、丁度そんな状態。インド出身の同僚ウデイと食堂で話していた時、そんな実情をちょっと吐露したところ、
「アンダースと話してみたら?つい最近、巨大プロジェクトをゲットしたんだよ。もしかしたらチームに入れてもらえるんじゃない?」
と有難い助言をくれました。

さっそく、上下水道部門のナンバー2であるアンダースのオフィスを訪ねました。
「最近ゲットしたってプロジェクトのこと、聞きたいんだけど、いい?」
コンピュータに向かっていた彼は、こちらをにこやかに振り向いて快く説明してくれました。これは、7年間で予算250ミリオンという、久しぶりの大規模プロジェクト。これくらいのスケールになると、スケジュールや予算の管理をしっかりしないと、コケた時の損害が大きくなります。彼の説明が終わったらそこんとこをぐっと売り込もうと、待ち構えながら話を聞いていました。すると彼が突然プロポーザルのページをめくり、まるでこちらの心を読んだかのように、
「君の名前はとっくに入ってるよ。」
と組織図を指差しました。

なんと、私の名前が組織図の上の方にちゃんと入ってるじゃありませんか。下手な売り口上を聞かせる前に分かって良かった!
「スタートはいつ頃?」
「明日はクライアントとの初打ち合わせなんだ。すごくスケジュールのタイトなプロジェクトになると思う。だからプロジェクト・コントロール業務はとても重要で、君には期待してる。ただ、前裁きにしばらく時間がかかりそうなんだ。各種調整に4、5ヶ月は必要かな。」
それから彼は、こう付け加えました。

“The clock has not started ticking aloud yet.”

直訳すれば「時計はまだ音をたて始めていない。」ですが、要するに、プロジェクトが「本格的に始まっていない」ことを言いたいわけですね。

これはビジュアルの浮かんでくる詩的な言い回しで、いたく気に入りました。今後、多用しようと思います。

Presumptuous 厚かましい

先日、わが社のある大物幹部からメールが来ました。
「ホノルルで、日本語の出来る技術屋を探しているんだが、考えてみないか?」
詳細を読むと、米軍の基地移設部門と日本政府の間の橋渡しをするポジションが出来て、人材を探しているというのです。条件は、日米バイリンガルのエンジニアであること、プロジェクトマネジメントの知識があること、さらに契約業務の経験があることです。
「まるで君のために書かれたような業務説明だろ。」
私のオフィスにやってきて転勤の検討を勧めたダグも、そう言ってプッシュしました。

確かにこれはやりがいのありそうな仕事ですが、「ホノルルに三年以上勤務」と書いてあるのがひっかかります。引退間近ならまだしも、ハワイに長期間住むというのはちょっとなぁ。

翌日、大ボスのエリックからもメールで「検討してみては?」と打診され、更には品質管理部門の大物クリスまで私のオフィスにやって来て、意向を尋ねる始末。こりゃ本当に会社が必死になって探してるんだな、という空気を感じました。
「でもさ、クリス。僕はサンディエゴの暮らし気に入ってるんだよ。ハワイに三年って二の足を踏むんだよね。しかも今の仕事、楽しいし。」
「うん、分かるよ。でもシンスケしかいないでしょ、このポジションでちゃんとやれるの。全米でこんな条件を満たす人が、どれだけいると思う?」
私は少し考えて、
「必要に応じてサンディエゴから出張するってオプションは無いのかな。だったらやりたいけど。」
これを聞いたクリスの返答が、

I don’t think it’s presumptuous to ask them.
彼らにそう質問したってプリザンプチャスじゃないと思うよ。

え?何だって?ぷりざんぷちゃす?

渡米する前に英語の勉強をしていた際、何度も経験したのですが、「単語ひとつ」知らないために、試験の問題文がまるまる1ページ理解出来ないことが多々あります。逆に言えば、単語をひとつ憶える度に、理解の範囲は指数関数的に増えるのです。この時のクリスの一言も、はぁ?でした。

Presumptuous というのは形容詞で、Presume という動詞の仲間。Presume は Assume とともに「推測する」という意味で知られていますが、実は二つの間には大きな違いがあることが、昨日調べた結果分かりました。

Assume: 現在起こっていることについて推測する。
Presume: これから起こることについて推測する。おこがましくも~する。

つまり、Presume は先のことを勝手に思い込んで行動する、というニュアンスの延長に、「生意気にも~する」という意味合いがあるのですね。これがPresumptuous まで変化すると、遂には「厚かましい」という意味に昇華されるわけ。

I don’t think it’s presumptuous to ask them.
彼らにそう質問したって厚かましくはないと思うよ。

べんきょーになりましたっ!